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【蜘蛛食み喋々】
蝶を喰む
移り気など起こさぬように
愛しているのは貴方だけだと其れは謂う。
肉感的で毒々しい紅の乗る其の唇を震わせて。
応える気など無いというのに。
人は貴女を何と云っているのか知っているのだろうか。
貴族に媚び諂う娼婦だと、
老い耄れを誑かす女狐だと、
金に目の眩んだ妾だと、
云っているのに気付かないのか。
余命幾許もない老いたる父を拐かしたと謂い放っても其れを謂うのか。
愛しているなどという世迷い言を。
父を愛していると謂ったのは矢張り嘘なのか。
彼の言葉は戯れか。
父の貌を見て謂った彼の言葉は戯れ言か。
ならばせめて金の為に近付いたと嘲笑ってくれれば無駄に美しい其の貌をズタズタに切り裂けたのに。
何故私を見て其れを謂うのか。
嗚呼、何と恨めしい。
父を愛していなかったと、
暗に貴女は此処で謂うのか
父の亡骸を目の前にして、
其の父をまったく顧みず、
唯々私ばかりを眼に移し、
貴女は其れを口にするのか。
応える気など無いというのに。
だが、
これ程までに憎いというのに、
眼が反らせぬのは何故なのか。
*
*
*
*
*
「こりゃまぁ見事に焼け野原で」
「こうもなるといくらかの有名な三条伯爵邸と言えども売れませんね」
「兎丸くん、身も蓋もないね」
「仕方ないでしょう。当代随一といわれた洋館が謎の焼失、おまけに死体が出てきたとなればすぐに売り手がつくと思いますか?」
「まぁ確かに」
「それとも貴方がお買いになりますか、子爵様」
「子爵はやめてくれ。
んー購入はご遠慮願おう。だが、三条夫人がいたら買ったかもしれないな」
「彼女も焼けましたけど」
「美しい夫人が焼死とは・・・・・・実に惜しいな」
「子爵は女性が大好きですからさぞ残念でしょう」
「一言余計だぞ」
「お亡くなりになったのは夫人と、先妻のご子息だったそうですね。
世間では後妻の夫人と折り合いの悪かったご子息が諍いの末に起こった火事だと噂されてますよ」
「夫人とご子息が・・・・・・。あの二人、そんなに仲が悪かったのか。この前伯爵の葬儀でお会いした時にはそう見えなかったが」
「ご子息は夫人のことを客人の前で売女と罵ったことがあるとかないとか。
伯爵と夫人は親子ほど歳が離れてましたから遺産目当てと思われたんでしょう。
まぁ噂ですが火のないところに煙は立たないと言いますし」
「そうかな」
「腑に落ちないみたいですね。何か根拠でも?」
「・・・・・・いや、噂を否定も肯定もできないんだか・・・・・・」
「だが?」
「あの二人が一緒に歩いているのを見たことがあるが、夫人は笑っていたぞ。ご子息は相変わらず無表情だったが少なくとも夫人は楽しそうだったんだがな」
「へぇ。そうですか。なら真実はどちらなんでしょうね」
「・・・さぁ?二人がいないから分からないさ。知っているのは二人だけだからね」
蝶を喰む
翅を毟り引き千切り
二度と飛べぬよう絡め捕る
糸を張る蜘蛛のように
愛と偽りその手を掴み
逃げぬように言霊を吐く
囚われたのは私か貴方か
きっと死ぬまで分からない
貴方が蝶で 私が蜘蛛か
貴方が蜘蛛で 私が蝶か
知っているのは私達だけ
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交換雑記より。
マコさんのイラストを元に誇妄想。
舞台は大正時代風。前半は伯爵の後妻で若き未亡人と伯爵の先妻の息子、後半は女好き子爵とその書生です。