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【 憐愛交差 】



「彼氏にバラしてもいいの?俺のこと」


屋上から声がした。

実に楽しそうに無邪気な声なのに
その中身はそぐわない。


「あ、襲われたのにヨガってましたーなんて言えないよね〜」


声の主は少年。
酷く整った顔で綺麗な笑みを作り声を立てて嗤う。

目の前には少女。
頭一つ分低い身体が小刻みに揺れている。


「ねぇ、どうする? 先、輩?」


聞くには甘く、理解するには辛辣なテノールが耳を侵食する。
まるでそれは愛を歌うように響く。

肩を竦ませ俯いていた少女は耐え切れず弾かれたように屋上を飛び出した。




「本当に酷いね」


頃合いを見計らったように背後から、給水塔の辺りから声が掛かる。


「趣味が悪いなぁ。盗み聞き?」

「いるの分かってたんでしょ?」

「ん〜?どうかな?」

「さっきの人・・・君の先輩の彼女さんだよね。君は好きなの?」

「べっつにぃ?ヤるのが楽しいだけ」

「あんまりそういうことしてると信頼なくしちゃうよ?先輩は気の合う仲間でしょ?」

「今更信頼なんていらないよ。大して信頼してる人なんかいないし」


邪気なんてまるで知らない様子で少年は答える。


「君に愛はいらないの?」


最後の問いに少年は満面の笑みを浮かべた。


「いるよ?俺はアンタに愛されればそれでいい」


自分にとって何よりも愛しい存在を抱き締める。

愛おしむように
逃さぬように



「・・・ぼくは君を愛せないよ」

「じゃあアンタが愛してくれるまで俺は待つだけ」


勝手に想い続けるのは悪くないだろ?と少年は愉快そうに笑って抱き締める腕に力を込める。


「とりあえず、キスさせて?」


反論も、哀れみも、言い知れぬ不安も、罪悪感も、幸せそうに頬笑む少年の口付けの中に消えた。






■□■□■□■□■

これこそどこにも入れられないワンシーン。
一応少女漫画風味に仕上げたつもりです。
でも明らかに違う。どうも報われない想いを書くのが好きなようです。
人様の話はハッピーエンド希望なのに。



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