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【ピストルオペラ】



 銃を奏でる、と人は云う




今日も白壁に青い空のコントラスト。

肌を撫でる乾いた風は心地良い。

午後は穏やかにエスプレッソでも一杯といきたいところ。
でもそういかないのが自分達。



空気を切り裂くファルセット。
甲高く上がる銃声(メロディーア)が耳を掠める。


「随分なご挨拶ね」


薄暗い路地裏の壁に背をもたれ、
長い銀の髪を掻き上げてその裏声に耳を傾ける。

先のファルセットを放ったライフルでカシミアのショールが駄目になった。
結構気に入ってたのに、と呟きながら構えるのはデザートイーグル。


断続的に刻むスタッカート。
銃声(メロディーア)は軽快にステップを踏むように。

ライフルを携える歌い手(カンツォニエーレ)は影に隠れる恥ずかしがり屋のシニョリーナへ愛を歌う。


「早く出ておいで、子猫ちゃん」


カプチーノが冷めちゃうよ?
とベランダから暢気に笑うカンツォニエーレ。
いつになったらその愛らしい声で愛の歌への返事を返してくれるのやら。
男は無残に崩れる町並みを眼下に口元を緩める。
それでも無機質なスタッカートは今だに続く。

しばらく続ければ白壁は愛の讃歌で壊滅的。
愛の深さは捻じ込まれた弾丸の分だけ溢れてる。



「カプチーノは嫌いって言ったじゃない」


耳をつんざく擦過音。
イスラエルの鷲が火を噴いた。
つんざくような啼き声と共に頬を一筋、弾道が痕をつける。

熱烈な告白の余韻に浸っていたら、後ろからお声がひとつ。
愛してやまないシニョリーナが来たのだとカンツォニエーレは振り返る。



「じゃあバチェットが好いの?」


からかうような笑みを浮かべてライフルを持ち直そうとする男にもう一発。


「そんな軽い挨拶で満足?」


歌姫(カンタトーレ)は重低音を響かせて調べを紡ぐ。

カンツォニエーレはライフルをあっさり諦めて、避け際にパイソンでカンタトーレの歌声に合わす。


「満足?とんでもない」


リボルバーのロールスロイスが美しい女の頭を狙う。
迷いのない軌道は愛故だ、とカンツォニエーレは歌うだろう。

パイソンの弾切れを見計らって女が一気に間合いを詰めた。
男の愛銃を素早く叩き落とし押さえ付けて上に跨がる。


「じゃあ何が欲しいの?」


女は愛銃の銃口を真っすぐ眉間に突き付けて問う。
鷲が鉤爪を突き立てる前に、と。


「何がって?」


甘い睦言を囁くようにゆっくりと見惚れるほどの笑みを添えて男はフィーネに向かって最後の言葉を女に捧げる。


「決まってるだろ」


歌う愛はフォルティッシモ。


「君が欲しい」


デザートが唸り声を上げる前に
隙をついて取り出された男のデリンジャーが発射された。




 ***********



「お加減はいかが?」


白い壁、白いシーツ、白いカーテン、エタノールの微妙な臭い。
白ベッドに横たわる女に小さな少年が声を掛ける。


「大丈夫よ」


女は穏やかに微笑んで少年の頭を撫でた。


「驚いた。人に逢いに行くって言ったのに病院にいるんだもの」

「心配かけてごめんなさいね」

「パパも心配してたよ」

「そう。ボスは心配しすぎだって言っておいて」


少年を撫でる彼女はまるで聖母のよう。
嫋やかに慈悲深い眼差しを向け手を動かす。


「約束した人とは逢えた?」

「ええ」

「その人は知ってる?」

「知ってるわ」

「ユウはその人のこと好きでしょ」

「よく分かるわね」


パパでも知らないのに。
と少女のように女は破顔する。
少年は得意げに笑い返した。


「パパとどっちが好き?」

「ボスよ」


少年の取り留めもない質問に女はさも当たり前だというように答えた。
更に女は言葉を続ける。


「この命に換えても護りたいと思うほど」


「じゃあさっきの人は?」

「嫌いかも」

「さっき好きって言ったじゃない」

「好きで嫌いなの。
 同族嫌悪、ついで自己愛」


意味が分からないと少年は小首を傾げる。
仕方ないわと女はまた少年の頭を撫で始めた。

そして腹に残る銃瘡に手を伸ばし唇に笑みを乗せる。
その笑みは妖艶なる悪女のよう。


「自分に酷く似てるから
 狂おしいほど愛しくて
 殺したいほど憎いのよ」



  情痕よりも深く激しい

  奏でる銃から贈られた

  一生残るスッキオット

  その傷痕は愛の証。




※※※※※※※※※※


バイオレンスな恋愛第2弾。
Love is overの設定でやってます。

設定としてはドンパチやってる恋人なのか敵なのか分からないアベックは殺し屋。
女性の方はマフィアかなんだか知らない組織に所属。ボスとは愛人関係かもしれない。
頭の足りない感じの坊やはボスの子供です。
凝ってるようで所々穴のある設定ですね。

一応用語説明。
・デザートイーグル、パイソン、デリンジャー
→拳銃のお名前。
デザート〜はイスラエル製の銃です。だからイスラエルの鷲。
パイソンは価格の高さ、銃身の美しさからリボルバーのロールスロイスと呼ばれてたらしいです。
デリンジャーは中折れ式の携帯銃なんだとか。
・ファルセット
→裏声。そんな歌唱法。
あとの見慣れない片仮名はイタリア語です。
・シニョリーナ
→お嬢さん。セニョリータ。
・カンツォニエーレ
→歌い手。男性名詞。
・バチェット
→軽いキス。
・カンタトーレ
→都合上歌姫にしてますが、本当は歌い手女性名詞。
・スッキオット
→俗語でキスマーク。

もうひとつ言いますと銃撃戦を繰り広げるお二人にはモデルがいます。
書いた本人も判らないくらいキャラがあまりにも違うので気付いた人は凄いと思います。


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