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□parody
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






今日という素晴らしい日の為に軽快なメロディーが紡がれる。

弾けるクラッカー、
鳴り止まないクラップ、
跳ね飛ぶシャンパンコルク、
響き渡る祝福と賛辞の声。
BGMは幸せの色。
すべては今日の主役の為にある。


「誕生日おめでとうございます」

今日祝われる人物に向けて司は花束を差し出した。
淡いベビーピンクの薔薇の花束はお祝いの言葉と共に今日のヒロインの腕へと収まる。
ヒロインはどこかぎこちなくはにかんでその花束を受け取った。

「ありがとう」

「紅(べに)さん、今日は笑って下さいよ」

誕生日なんですから、と柔らかに司は笑う。
紅は綺麗に小さく丸く収まった愛らしい花束を少々難儀な顔をしながら見つめていた。

今日は紅の誕生日。
記念日なんて真っ先に忘れそうな本日の主役に代わって、何かとお祭り好きな彼女の友人たちがこれ幸いと盛大なパーティーを開いていた。
遠慮か無関心か今一つ乗りの悪い紅をよそに、祝いに託つけて騒ぎたい連中ばかりなので無駄に華やかで豪勢な誕生日会になっている。
現にパーティー会場に選ばれた場所は、時代錯誤なシャンデリアと赤い絨毯とルネサンス絵画が彩る欧風の屋敷を陣取どる凝りよう。
やりすぎくらいが丁度いいと彼らはいうだろう。
それは想像に難くなかった。


「皆さん注目!」

舞台装置のような細工の利いた白亜の階段の数段上で声が上がった。
見ればめかし込んだ魔矢と夕が階段を駆け上がり、高らかにグラスを掲げているところだった。
二人は観衆が視線を自分たちに向けたことを確認すると再び口を開いた。

「今夜は記念すべき夕美紅嬢の誕生日です!」

華やかな笑みを浮かべ魔矢が最初に言葉を投げかけた。

「皆さん、えらい別嬪さんの祝い事やからってもう飲む前に酔うとりませんか?まだまだこっからですよ〜」

片目を瞑り茶目っ気を見せながら夕が続く。

「そうそう、紅さんが美しいのはいつものことですから。その美貌に酔いしれるのは今しばらくお待ちを」

夕の呼び掛けを受けた魔矢の冗談に聴衆からは笑いが起こる。

「さ、皆さんが酔うてしまう前にひとつ乾杯といきましょか!」

そう言うと夕はグラスを突き上げた。
魔矢も倣うように掲げる。
そして高らかに声を張り上げた。

「今宵世界で最も美しく幸福な銀髪のレディに愛と感謝を込めて」

「「乾杯!!」」

イルミネーションとムードで煌めくフロアに華奢なグラスの涼やかな音色が鳴り響いた。



「紅さんおめでと〜!」

乾杯のグラスが下がると真っ先に抱きつく勢いでアンジュと天が飛び出してきた。
手にはセンス良くラッピングされた大きなプレゼントと花束。
二人揃って可愛らしく差し出す姿に紅は少しだけ笑って応えた。

「皆で選んだんです」

「天とアンジュちゃんと青女さんと咲夜さんとで!」

少女らしい笑みで周りを囲むアンジュと天の後ろから咲夜と、その更に後ろから控えめに青女が紅に歩み寄る。

「貴女はもう少し着飾った方が素敵よ」

くすりと笑ってプレゼントを指す咲夜を見て紅は中身が何なのか思い当たった。
多分普段の自分からは想像できないようなコーディネートの服と装飾品一式だろう。この前体のサイズを隅々測られたから。

苦笑いしながら受け取る紅に別方向から声が掛かった。
声の主は見慣れないドレッシーな路だ。

「おめでとう。俺からはこれね」

路は紅の手を恭しく取るとするりとその白い手首にプラチナの時計を落とした。

「素晴らしい時間を貴女に。指輪は愛しの彼に譲るよ」

「先生クサい」

「そないキャラでした?あんさん」

「魔矢、アンタが言うと説得力薄い。確かに路先生台詞はクサいけど」

路の台詞に魔矢、夕、アンジュが各々好きなように発言する。
状況は違うがいつものやり取りに周りからはまた笑いが漏れた。


それから代わる代わる人が訪れ、単純な祝い言葉から間違ったの愛の台詞まで様々な言の葉と一緒に個性的なプレゼントが紅の元へ舞い込んだ。

嬉しいプレゼントの来襲が一先ず終焉を迎えると、紅の周りは少しだけ静かになった。
相変わらず飲めや歌えやの宴会状態だったが、それは遠くの喧噪に聞こえる。


「紅さん」

唯一自分に向かう声に顔を向けるとそこには園衞が立っていた。
小柄な体を覆うような腕いっぱいの白薔薇の花束を抱え珍しくにっこりと笑っている。

「誕生日おめでとうございます」

笑顔と共に芳香を漂わせて薔薇が白の軌跡を描いて紅に手渡された。

「…お前から貰うと何だか妙だな」

「失礼ですね。ちゃんと棘の処理も済ましてるのに」

「そりゃどうも」

「皆さん何かと凝り性ですからベタがいいと思いまして、おれと輝一朗さん二人からです。年の数の倍用意しました」

何にしようかとあれこれ迷う二人が容易に想像できて紅は思わず笑った。

「笑わないで下さいよ。盆栽あげようとしてた輝一朗さん止めるの結構大変だったんですよ?」

相変わらずの頼光の行動を思い出して眉間に皺を寄せる園衞に紅は可笑しそうに口元に手を添える。

「ありがとう、園衞。頼さんにはあとから言うけど伝えておいてくれないか」

「どう致しまして。輝一朗さんには泣いて喜んでたって伝えときます」

「そういうよく判らん嘘を吐くなよ。あの人信じやすいんだから」

最終的はいつも通りの態度で嘯く園衞に紅はいつも通り眉間に皺を寄せる。
それを見ると園衞はくすっと笑ってその場から歩き出した。

「紅さん、おれはこれで」

くるりと回り軽快なステップで園衞は紅の元を離れた。

「あー、それからあの人から伝言。何とか今日中には帰れるそうですよ」

去り際、思い出したように足を止め園衞は一言付け足した。
はっきりと誰とは言わなくても紅は誰を差してるのか分かる。

「一番ベタな赤い薔薇はその人から貰って下さい」

にやりと口元に笑みを乗せ、ひらひらと手を振りながら園衞は踵を返してその場を後にした。



園衞が去った後は、会場全体が既に酒乱の巣窟と化していた。
主賓をよそにワインのラッパ飲みは当たり前、祝い事だとシャンパンの掛け合いを始めたり、種類が判らなくなるほど混ぜ込んだカクテルの一気飲み、チャンポンなんて上げるまでもない。
酒を飲まない紅は崩れ乱れ騒ぐご機嫌な来賓を尻目にバルコニーへと足を進めた。


暗がりにふわりふわりと風が吹く。
ドレスの裾を風が攫う。

丁度そこで美しい鐘の音が厳かに響いた。
一日の終わりと始まりを告げるの調べ。
紅の誕生日は終わりを告げ、また時を積み重ねる日常が始まる。


── 結局来なかった


期待はしていなかったと言えば嘘になるが、前々から分かっていたことだから仕方ないと紅は無意識に溜め息を吐いた。
春先にはまだ幾分遠い夜風は薄いパーティードレスでは少々肌寒い。
失敗したと思いショールを持ってこようかと会場へ目を向けたところで呼び止められた。

「紅!」

控え目に、だがはっきりと紅の名を呼ぶ声はバルコニーの向こう側から。
振り返るとバルコニーの柵に手をかけ笑う璃王がいた。

「…リオ?!」

思わぬ場所からの出現に紅はショールのことなどすっかり忘れて駆け寄った。

「お前何しにきたんだ」

「勿論紅の誕生日を祝いに」

不安定なバルコニーの縁から璃王はとびっきりの笑みで告げる。

「もう終わった」

だが対する紅は無表情で突き返した。

「…あー…ごめん、間に合わなくて」

「別に気にするな」

すまなさそうに俯く璃王を置いて紅は素っ気なく室内へ引き返す。

「あっ!待って!」

去ろうとする紅の手を璃王はバルコニーへ乗り上げ咄嗟に掴み引き寄せた。
思いの外かかった力に紅はバランスを崩して璃王へ倒れ込む。

「ごめんね。当日に祝ってあげられなくて」

後ろから抱き込む形になった紅に璃王は小さく囁くと手元から花束が現れた。
それは赤い赤い真紅の薔薇。
開ききらない花弁が目一杯敷き詰められ所狭しと美しい紅を誇らしげに掲げる。

何てベタな奴、と思いながら寒さとは違う頬の赤みを隠すように紅はその花束を受け取り緩く抱きしめた。


「でもね、当日は皆に祝ってもらった方がいいよ」

唐突な璃王の言葉に紅は意図が分からず振り返った。
すぐさま目に入った璃王の顔は穏やかな柔らかい笑み。
益々意味が分からないと紅が怪訝そうな顔をすると璃王は笑みを深くして言った。


「だってあとの364日、紅は俺のものだもの。1日くらいは皆に譲ってあげないと」


「……馬鹿」



本当は365日でもいい。

死ぬほど恥ずかしいけど本心に近いこの想いは、今は薔薇の花束に隠しておく。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

開設一周年記念のssでした。
オリキャラ総出演とまではいきませんが、パラレルで共演。
パラレルでは皆さん何だか仲良しです。あとラブラブ(笑)



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