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□parody
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※※attention※※

おそらくゴシックファンタジーです。
微弱に流血してます。
微妙に長いです、三頁です。
雰囲気として序章ぽい感じ。

パラレルOK、ファンタジー上等な方はこのまま進まれたし。










 【 ― Grand Guigno ― 】





いつ死んでもいいということと、死ぬ覚悟が出来ているということは似て非なるものだ。

我々は死を希求することに思考を費やす自殺志願者ではない。
我々は神に絶対の忠誠を誓いその生涯を以て仕える僕である。

この命あるがうちは神の御許が我が礎。
誰が為にいつ何時屠られようと構いはしない。
それが己が意志に殉じた結果ならば。

少なくとも自分はそう思っていた。










自身を囲む状況に、紅は僅かに狼狽していた。

自分が今いるのは真っ白な天蓋がかかる寝台だ。
そこに横たわっていたらしく、気付いた時に目に入ったのはその帳を纏め上げた白い布の塊だった。

寝台に横たわった覚えはない。
そもそもこの場所自体覚えがない。

一体いつからここにいるのだろう。
何故ここにいるのだろうか。

ぼんやりと纏まらない頭をもたげる。
起き上がれば見馴れぬ白い布を纏う己の足が見えた。

まったく既視感の湧かない情景にじわじわと不安が募る。
えも言われぬ感情に被われる前に、紅は天蓋を押し退けて寝台から足を降ろした。

当たり前だがここは室内らしい。
白を基調とし、彫金の施された調度品が品良く配置されていた。
一目で安物ではないと判るそれは家主の趣味の良さが知れる。

部屋に人の気配はない。
生活に支障はなさそうだが、代わりに生活感がない部屋。
まるで人の暮らしを模したドールハウスのように綺麗すぎる。
その整然さが押さえ込んだ不安を煽った。

覚束無い足取りで歩を進める。
引き摺る長い裾を無理矢理払いながら、留まることだけは出来ぬとふらつく足をどうにか動す。
毛足の長い絨毯に音も速さも奪われる。
それでも視界に映った白い扉へ一心に向かった。


「あ、」


程無くその絨毯と自らが纏う裾に紅は足を取られた。
抗う間もなく膝が崩れる。
柔らかな絨毯は倒れ込む音さえ飲み込みついた手を包んだ。
未だに頭は冴えないが、座り込んだままではいられない。
手探りで掴める場所に手を伸ばしで気怠い体を起こした。

ふと顔を上げる。
目の前には自分が映っていた。
蔓のように絡む銀細工の大きな一枚鏡。
それに映った自分は、胸元の大きく開いた白のドレスを着ている。
だがそれよりも目を引いたのは、
向かって左側、鎖骨よりも下にある痣だった。

いや、痣ではない。
赤く色付いてはいるが、よく見れば蔓薔薇のような紋様が見て取れる。
胸元に一輪だけ控えめに咲き誇る赤い薔薇。

覚えがない。
この刺青のようなものも、白いドレスも、何より己を取り巻くこの部屋自体何も知らない。
気付けばその薔薇をなぞる指が微かに震えていた。


「・・・・・・これは、何だ?」


意図せず紡がれた呟きも掠れと震えが厭に響く。
知らぬ間に下がった震える手をもう一方で握りしめ、紅はゆっくり首を動かした。

再び視線の先に入る白い扉。
今度は迷いなく真っ直ぐその扉へと進み、外へと歩み出た。

次に現れたのは書斎と思われる部屋。
辺りを見回し、気分を落ち着かせようと部屋の様子を確かめる。
一揃えの橡(つるばみ)色の机と椅子があるばかりで、それ以外は窓も何もない。

その机に近付いて引き出しを開ける。
三段ある箱を下から無造作に引き当てて中身を見た。
封蝋と印璽、インクの小瓶、便箋にペーパーウエイト、万年筆。
そして一番上に置かれたペーパーナイフを手に取ると、紅は部屋を飛び出した。


次の扉を開けて出たのは廊下。
左右を見ても出てきた場所以外扉が見当たらない。
またしても窓は見当たらず、遥か頭上に鈴なりに並ぶシャンデリアだけが光源のようだが、足元にくっきりと影を生むほど灯りはある。

先の部屋と変わらず豪奢な白が続く廊下を見渡す。
そして再び振り返った時、紅は驚き瞠目した。



「おはようございます、『奥様』」



今まで誰もいなかった場所に、さも当たり前のように一人の少女が立っていた。
モノトーンでまとめられた女給姿の少女は焦げ茶色の三つ編みを揺らしてご機嫌いかがですか?と愛らしい顔を傾けて尋ねる。


その瞬間、紅は弾かれるように駆け出した。




少女を認識して瞬時に分かった。

あれは人ではない。
あれは仮初めの皮を纏う闇の卷属、異形の者。

本来ならば逃げてはならない。
あれは滅せねばならぬ者。

しかし今は抗う術がない。


紅はペーパーナイフを握りしめ、果ての見えない廊下を脇目も振らずに走った。



「あら、ひどい」


何も顔を見て逃げなくてもいいのに。と、少女は呟いた。
逃げられたことにさして慌てる様子もなく、壁に手を付けて喋り始める。


「魔矢、夕(セキ)、奥様が驚いて逃げてしまわれたわ」


するとまるでカーテンを開けるように壁が捲れ上がり若葉色の頭が現れる。
その頭の主が片足を出す頃に、今度は床から浮き出るように金髪の少年が少女の前に立った。
二人の現れ方を気に留めることなく少女は言葉を続ける。


「迷われる前にお連れしましょう」

「そこはお手柔らかにー、やで?アンジュ」

「そっくりそのまま返すわ。間違っても串刺し・蜂の巣にするんじゃないわよ。アンタもね、魔矢」

「はいはい。取り敢えずお迎えに上がろうじゃない。我らが主の『花嫁』様を」


三人は紅が走り去った方向へ、溶け込むように消えて行った。



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