立海
□ちょこれーとの赤い箱
1ﾍﾟｰｼﾞ/1ﾍﾟｰｼﾞ
２月１４日。
世間は何故かピンク色の空間に変わり、色恋にうつつをぬかす女子や男子で溢れかえる。女子は懸命にチョコを渡し、男子は今か今かとチョコを待つ。
その中に俺がいないのはそんな色恋に関係の無い奴が好きだから。アイツはきっとバレンタインなんてどうでもいい、むしろバレンタインの意味を知らないかもしれない。…有り得る。
なのに、
「はいチョコ」
「は？」
「は、って…いや、いらないならやらないけど」
「え、いや！もらうもらうけど、でも、え、何で！」
いきなりの展開に俺の頭はついていかない。
俺の目の前に差し出された手のひらサイズの赤い小さな箱。可愛いリボンでラッピングまでされている。
「…今日バレンタインでしょ？だから」
「…バレンタイン知ってたんだ」
「赤也バカにしてるでしょ」
「してねぇよ！してない！」
このままコイツの機嫌を損ねでもしたらきっとこの奇跡(チョコ)は一瞬にして消え去ることになる。嬉しい、嬉しい、けど、…けど！
「なにその袋！」
「なにって…チョコ」
「チョコ…誰の」
「先輩達にあげるやつ」
「先輩達…どの」
「いや、テニス部の」
「なんで！えー！マジ意味わかんねっ！俺だけでいいじゃん！」
「いや、頼まれた、し…」
俺が余りにもウザかったのかなんなのか、地団駄をふむ俺に「とりあえず赤也にもあげたでしょ！」と言って走って行ってしまった。きっと走って行った場所は先輩達の教室。
はぁ、とわざとらしく大きなため息を吐いてから俺は手の中にある箱を見つめた。まぁ義理でもアイツから貰えたんだからいいか。
カタッと箱をあければ、中には四つの種類の違うチョコが入っていてどうやら手作りの様だった。チョコとか作れるんだ…意外。
「あ、うまい」
口の中でとろける甘いチョコレート。あぁきっとこの気持ちをあの先輩達も味わうんだろう。考えたらすんげー嫌なんだけど。
そんなことを考えながらヒョイヒョイと口に運んでいると数少ないチョコはあっという間に姿を消した。
「あーあ、来年は本命チョコが欲しいな」
俺がもらった赤い小さな箱、実は一つだけ用意された特別な赤い箱だったりする。
けれどそんなこと気付く訳もなくて、チョコを食べ終えた俺はその箱をくしゃりと潰してゴミ箱に投げ捨てた。
end.