特殊作品

□時と狭間と輪廻の輪
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WHITE BLOSSOM





例え時間の概念が無い場所でも、生前の習慣は残っている。
だから時々空腹感を覚えたり、眠くなる事だってある。

彼、KKはうたたねしていた(勿論立ちっぱなしである。此処に椅子という物は無い)。

だが気配がすればすぐに目を覚ます。
そうして気配のした方を見て、利用者でない事を確認する。

「またお前か……」
「またって現実じゃ一ヶ月近く経ってるよって言っても、ここじゃ関係無いか」

けたけたと馬鹿にしたように笑うのは、魔術師のナルヒコだ。
近年の魔術師の中では一番の力の持ち主であり、精神を飛ばしてここに来れる唯一の生きた存在である。

しかしやはり精神汚染は受けるので、長くは此処に居られない。

「で、今日は何の用だ?」

無駄だと思いつつも、一応聞いてみる。

彼は暇だから、という理由で此処に来るような奴だ。
今回も理由なんてものは無いだろう。

……と思っていたが、今回は意外にもまともな答えを聞いた。

「『桜』が産まれてくるような気がしたんだ」
「『桜』?」
「そ、『桜』」


成程、と思った。

最近この空間が妙にざわついている。
これは魂の欠片が集まり、何かに再構成される時の反応だ。

ナルヒコは『桜』と言った。

それは多分……


「来るよ」



雪が集まる。

一粒ずつくっついて。

集まって。

一つの物を形作る。


そして人が出来た。



「『桃香(タオシャン)』……」


にぃ……と変な笑みを浮かべて、ナルヒコは呟く。


「……大丈夫か?」
「え……? あの、はい……」

形が安定した頃、KKは彼女に話し掛ける。
大分しどろもどろ……というか、怖がっている。

仕方がない。
感情表現の強弱が薄い為、長い事見ていないと無表情にしか見えないのだ。

怖がられるという事自体はもう何度も経験している。
しかしやっぱり、悲しくなってくる。

と、その時。


「おーい、KK! 産まれたかー?」


道楽神・MZD登場。
様子からして何かが産まれる事に気付いていたらしい。

「おっ、綺麗なの産まれたなー。初めまして、タオシャン。俺はMZDだ」
「神……? 主神様……?」

「……なぁ、ナルヒコ。あの桜の神、ちょっと不完全じゃねぇか?」

産まれてきたのが人だった場合は兎も角、神の場合は最低限の知識を既に持っている。
特に主神・MZDに関する事は確実に知識を持っている筈なのだ。

なのにタオシャンはMZDと聞いて反応しなかった。

「さぁ、不純物でも混じってたんじゃない?」

駄目だこりゃ。

「冗談だって。多分産まれる時が早かったんだろうね。赤ちゃんでいう未熟児って奴。最近この世界に衝撃与えなかった?」
「衝撃っても、俺にそんな力はねぇし……思い当たるのは────……」


そう言えばこの前、MZDが悪ふざけで花火飛ばしたなぁ、数発。


「それだ」
「いやー、祝ったつもりが悪影響与えちった」
「お前なぁ……」
「ま、これから教育すっさ。子供の世話は親の仕事だもんなー。それじゃあな、KK。また来るぜー」
「んじゃあ、ボクも帰ろうかな。見るもの見たし」
「とっとと帰れてめーら」



漸く静かになる灰色の駅。
其処でKKは溜め息をついた。

彼らが帰った後は、必ずと言っていい程溜め息が出る。
だがそれでも、嫌にはなれなかった。

この場所が好きだった、騒がしくなるこの場所を好んでいた。
昔とは大違いだ。

「でも、この空気を……一番望んでたんかも、しんねぇな……」

笑う。
見た目は無表情でも、彼は確かに笑っていた。










加筆修正 H24/10/28
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