特殊作品

□短編集
11ページ/61ページ

虚妄の彼方の





ウーノは皆のものだ。
誰か一人だけのものじゃない。

第一、芸能人である以上、自分だけのものという状況は、有り得はしないのだ。
それでもツーストの心を荒らす、熱く煮えたぎる嫉妬。

「ウーノ、お疲れ〜」
「お疲れ様です」
「フォースも若もお疲れ様」

「お疲れ様ー」
「お疲れ様でーす」
「はい、お疲れ様ー」


くそ……

きびすを返して、無意識に爪を噛む。

あんな所にいられない。
ウーノが他の人に笑いかけている所にいるなど、出来ない。

自分はこんなにも嫉妬深かっただろうか。
自分自身に呆れて、溜め息が止まらない。

閉じ込めたい。
自分一人のものにしたい。

身勝手な独占欲。

駄目だ。
そんな事は許されない。

彼は自分一人のものではない。


「……何、同じ事、繰り返してるんだ……」


酷い、色々と、自分の頭が。


「……最悪だな。嫌われる」
「誰に?」


息が止まった。
否、心臓が止まる思いがした。

ほぼ真後ろ。
其処から自分を悩ませている人物の声がして、固まらないわけがない。

自分でも驚くぐらい、恐々と背後を見る。

「ウ、ノ……」
「やっと追い付いた。全く、挨拶終える前に、抜け出しちゃいけません!」



 ペチンッ



額に軽くデコピンされる。

そんなに痛くはなかったが、子供扱いされている様で怒った様な顔をしてしまう。
だがウーノには違う意味で捉えられてしまった様だ。

「たった一つだけ年下なんだから、そんなすねた顔しても可愛くないよ」
「だったらたった一つだけ年上だからって、俺を子供扱いするな」

背を向け、歩き出す。


俺は、ウーノに。
何を期待しているのだろう。

馬鹿馬鹿しい。

ウーノが。

それ以上に、自分が。


「勝手に行かないでよ」



 ギュウ



…………え?


「お疲れ様って、言う事も許されないの?」


許す許さないの問題ではない。
自分が我慢出来なくなるだけだ。

勘違いをする。
勘違いをしてしまう。

それは、駄目だ。
戻れなくなる。

否、もう戻れない所まできているかもしれない。


「ウーノにとって……俺は何だ……?」
「ツースト……?」


困らせたくない。

その思いがかせとなり、何も気付かないウーノも、矛盾した想いもそのままに。

俺は……
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ