特殊作品

□短編集
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ずっとずっと側にいるよ





ジャスティスが抜け出しという名の迷惑行為を行った瞬間を見かけて、喜んだのは仕方のない事だと思いたい。


「お兄ちゃん今何処に行んの!? マネさん胃の辺り押さえてたよ! マイペースなのは構わないけどさ、周りに迷惑かけるのは止めてって何回言った私!!」


電話に向かい、周りを気にせず大声で叫ぶ『虹っ娘』リーダーの星野 空。
それに対し周りは苦笑するか、眉をしかめるか。

因みにケイゴは前者。
それはジャスティスの行為を見逃した負い目も含まれている。


ケイゴは自他共に認めるジャスティス信者だ。
その崇拝ぶりは二人が高校時代に出会った時と全く変わらず、今では世間様にまで浸透している。
(腐った人達にはそういうものを作られている事も知っている)

しかし最初の頃とは引っ付く理由が変わっている事を知る人は、案外少ない。
ジャスティスすら知らないだろう。

勿論彼は今でも憧れの人だ。
だけどそれ以上の感情はない。

……恋人であるロミ夫の反応が楽しいから、その振りをしている気持ちがないわけでもない。
あの嫉妬ぶりは見ていて楽しい。

性悪? 自覚している。

「とっとと帰ってきなさいよ能面野郎!!」

バチン、という凄い音を立てて携帯電話を閉じる空。

わぉ、背中に般若背負っているのが見える。

「そ、空ちゃん……ちょっと落ち着いたら……」
「へーぇ? あんたはお兄ちゃんの肩持つんだぁ。そうよねぇ、あんた、崇拝っぷりは有名だもんねぇ。そっかそっかふーん」


こっ、怖ええぇぇえ!!
俺そんな意味で言ったんじゃないよ!
確かに正義先輩は尊敬してるけどさぁぁあ!!

……なんて言える筈もなく、剣呑な笑顔を向けてくる空を冷や汗垂らして見つめるだけ。

そんな表情でも、自分を見てくれるってだけで離れようとはしないのは、悲しい男の性か否か。


此処までくれば分かるだろう。
ケイゴがそういう意味で『好き』なのは、今彼の目の前にいる星野 空だ。

最初は間違いなく『正義先輩の従姉妹』としか認識してなかった筈なのに、いつの間にか気付いたら……という王道的な感じで好きになりました……
話しかけるだけでもちょっとどきどきしています。
あ、勿論正義先輩の時とは完全に別物だからな……って、誰に言い訳してるんだろ。

「で? 他に言いたい事でもあんの?」
「え? あー……」
「多分二十分もすればお兄ちゃん戻ってくると思うし、その間のフォローでも頑張んなさいよヘタレ。中休みでも生放送はまだ続くってのにあのマイペースは……!!」

刺々しい言葉に、脈ねーなー……と思うのは毎回。
何故こんながさつでかわいげのない奴が好きなんだろうとも思うが、やはりどう嫌おうとしても嫌いになりきれない。
大体空とは十歳近く(正確には八歳)離れているというのに。

……ロリコン? いやいや、そんな筈は……

「ちょっと! ぼーっとしてないで動きなさいよ!!」



 ばしん!



思いっきり背中を叩かれた。

うん、痛い。
女性に力がないって嘘だろう。

……って、そんな事を考えている場合ではない。
叩かれた時に覚えた違和感の所為か、体が勝手に動いた。

「な、何よ」

ぎゅ、と空を逃がさないように細い手首を握る。

うわ、細。
わさわさした……否、そんな変態じみた事は決してしないぞ、うん。

「離せってば!」
「あー、空ちゃん? 何かみょーにきっつくあたられてる気がすんの、俺だけ?」

空の表情が固まったのは一瞬で、次には蛸のように顔を真っ赤にする彼女がいた。

「ばっかにしてんの!? あんた自意識過剰!? それともマゾ!? どっちにしたってあんたなんかお兄ちゃんよりも下(しも)よ下!!」

自分が滅茶苦茶な事を言っている事に気付いていないのか。
しかし今の怒声は心にちくりときた。

否、傷ついたとかそんな感覚ではない、何処かもやっとした感じ。

言葉にできない、もやっとした気持ち……むかっとする気持ち。


「誰にも言わずにいなくなる正義先輩よりも俺の方が格下なんすか」
「へっ……!?」


ジャスティスの事を否定するような言葉に、空は驚いたようで目を丸くした。
実際、ケイゴ自身も驚いていた。

学生時代から彼を尊敬する気持ちに嘘はない。
だから嘘でも否定なんて出来なかった。

それが今回に限って、自然と口から出てきていた。

これが、嫉妬と言うものかな。

まるで関係のない他人を見るような気持ちでそう思う。

ロミ夫はジャスティスに対し心が狭いが、もしかしたら自分も大概かもしれない。

「ちょ……何? あんた変なものでも食べた?」
「…………」
「とっ、兎に角、スタジオ戻るよっ!!」

手を振り払い走り去っていく空。
あの厚底ブーツでよく走れるなとは思うが、それ以上にがっくりときた。


振られた……

それ以前に何も言っていない。
本人の思いこみで落ち込んでいるだけだ。

だがその落ち込み具合が凄まじい為、周囲のスタッフは彼を避けて通っている。


「……何しているのですか?」


そんな彼に話しかけたのが、戻ってきたジャスティスだ。
外は随分と寒かったらしい、いつもは真っ白な頬が軽く赤らんでいる。

「正義先輩ぃ……」

今だけは彼が恨めしい。
彼を嫌う事は絶対にあり得ないが、しかし彼がいる限り空の中では自分は永遠の下だ。

そんな複雑な心情を見抜いたのかどうかは分からないが、彼は軽く目を見張ると苦笑してケイゴの頭を撫でた。


「何があったのか存じませんが、私は君の味方ですからね」


思いがけずうるっ、ときた。

そんな事言われたら、俺っ……


「やっぱり愛してます正義先輩ー!!」
「うわぁっ」


うん、空の事は『好き』だけど、大きさ的にはこっちの方がまだまだ大きいかもしんね。

そう思うケイゴだった。










─────

メリークリスマス!!
「ロミジャス話とリンクした話」とだけ決めて書き始めた所為か、やっぱり少々ぐだぐだした話となってしまいました。
最初は二つ合わせて別名「星野兄妹(?)の攻め二人の嫉妬もんもん話」とか、わけ分からん事言って気合い入れてたんですけどねー……
んん、精進します……

H22/12/24

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