特殊作品

□短編集
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海の底から手を伸ばせ





「もう、私の事なんて放っておいてください!!」


諦めずに伸ばされ続けた手のひらを拒絶したのは、間違いなくショウコ自身。

気付いていたのに。
彼女を見つめる目は、バンダナに隠されていても、真っ直ぐに向かっていたのに。

自信がなかったのだ。

笑えない。
言う事は辛辣。
身なりに気を使うわけではないから、特別可愛いわけでもない。

そんな自分が、慕う人も煙たがる人も多い、Dに見てもらえるなんて思っていない。
身の程を知れ、と冷静な自分がさげすむ。

だから、拒絶した。
拒んで拒んで、拒みきった。

誰に言われるでもなく、間違いなくそれを自分自身が選択したというのに。

どうして。


「こんなにも、痛い……?」


彼はいなくなってしまった。

否、消えてしまったわけではない。
ふと振り向けば、友人と音楽の話に花を咲かせている姿が目に入る。

そして此方を一度も見る事はない。

当たり前ではないか。
愛想を尽かす態度をとり続けたのは誰だ。
彼はもう此方を見る事はないし、関わり合いにすらならないだろう。

それを自分は望んでいた。

そうして、ずっと一人で……一人が、お似合いなのに……

疎ましくて、羨ましくて。
彼が、眩しくて。

…………。

無意識に上げていた腕を、押さえるように下げた。
そして逃げた。


馬鹿だ、自分は馬鹿だ。

自分の行いの所為でなくした物を、今更惜しむなんて。
そして傲慢にもそれをまた手にしたいだなんて。

嫌いだ。
こんな浅ましい自分は、嫌いだ。
嫌われてしまえばいい。


どうせ、私なんて……



「何故諦めるんだ?」
「は、」

いつの間にDが側に。
否、そんな事よりもまさか、葛藤しているところを見られて……!?

か、と顔が真っ赤になった。

こんな恥ずかしい事はない。
客観的に見れば、先程の行動は間違いなく挙動不審者だ。

そんなところを(一応)諦めた相手に見られるなど、穴があったら入りたい。

逃げようとがむしゃらに暴れて、だが男女の体格差から容易に振り切れる筈もなく、とうとう抱きしめられた。

「うぁ……離して……!!」

虚しくて、情けなくて、だけど抵抗という抵抗は出来ていない。

彼はどれだけ惨めに思わせれば気が済むのだろうか。


酷い。

最終的にはその言葉が頭を埋め尽くし、ぎゅ、と彼の服を掴む。

そんな情けない姿に何を思ったのだろう。
何も思っていなかったのだと、後で知った。

深い事など、何も考えていなかった。

彼はただ、


「何で逃げる? 何で自分から手を伸ばそうとしない?」


息を一瞬忘れるほどの衝撃だった。

逃げる?
手を伸ばす?

何を言っているのだ彼は。

それではまるで、

「言い訳は聞かない。全部見てたからな。その涙はお前の本音だろ?」

涙?と思って目元に手をやれば、自分でも驚くぐらいに濡れていた。

そう自覚するともう止まらない。
喉が痙攣して、変なしゃっくりも出てきた。
色々な感情が混じり合って、何故涙が止まらないのか分からない。

そんなショウコをDはただひたすら抱きしめ、誰も聞こえないくらいの小さな声で。



「ほら綺麗な色を隠してたじゃねぇか」










────

BGM/深海少女
作詞・作曲/ゆうゆP
歌/初音ミク

以前日記で言っていたDショコで『深海少女』です。
若干乗り気じゃないのに書き出して、それから日をあけながらぶつ切りに書いていた為、妙に短い文章が多くなりました。
そしてショウコがうじうじしすぎたかも。
彼女は恋愛に対し、粘着質気味なイメージがある。

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