特殊作品

□赤に浮かぶ白の脅威
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1、《サイレン》の不吉な鳴き声





《公国薬泉院》。
国立病院である其処は、迷宮に挑む冒険者達にとって欠かせない場所だ。

毎日沢山の怪我人が運ばれ、時には見つかった死体が運ばれ。
他にも来客者が多くいる。
見舞いにきた人は当然ながら、薬の原材料を届けにいく人とかもいる。

《アルミラージ》が今回此処を訪れたのはそんな理由だ。
せわしなく働くメディック達を見ながら、此処の医院長を探す。


「ハヤト、居たわよ」


カゴメが相変わらずの冷淡な声でハヤトに言う。
それに多少苦笑いしながらも、此方に気付いたヒグラシに話しかけた。

「こんにちわヒグラシさん。『苦ヨモギ』と『ミント草』届けにきました」
「ありがとう。うん、これだけあれば十分だね。これが報酬だよ、またいつか頼むね」

売店に売った時と比べ数割増しの金銭報酬に、ショウとニッキーが「ごちそう食べよう!!」とか何とか騒いでいる。
「散財禁止!!」とライトに殴られて黙らされていたが。

兎に角それで《アルミラージ》の仕事は終わり……の筈だった。


「ヒグラシさん急患です! 至急手術の用意をお願いします!!」


普段おっとりとしたミライ=ユメノが、かなり緊迫した声を発する。
それに反応した手が空いているメディックが準備に走り出し、ヒグラシは患者を奥に運ぶように指示をする。

ハヤト達は邪魔にならないようすぐに退散するつもりだったが、


「ね、姉さん!?」


急患がミサキだと気付いたハヤトが、彼女に駆け寄る。
その時に無理矢理止めようとした他メンバーだったが、セシルに「待って」と言われてつんのめった。

「何でだヨ。幾ら身内でも今は治療が先だロ」
「ミサキさんやられる、おかしい」

セシルは年齢からしたら少々言葉がつたなく、単語を合わせたような言葉遣いをする。
だが時折はっとする事を真顔で言う。

今回もそうだった。

ミサキは仲間に引かれるほど、自己保身の為に身内を売る事も厭わない。

……否、言い方が悪かった。
自分の命を守る為なら、味方を盾にだってする人だ。

しかしそんな一見いい目で見られないような行動を取る人でも、仲間の事は大切に思っている……多分(ハヤト談)。

まぁ、その辺りは微妙だとしても、様々な可能性を考えてみんなでピンチを乗り切る。
そんな人だ。

そんな理由からか他メンバーが傷だらけでも、ミサキだけやや軽めの傷を負っている状態がパターン化している。

それが何故こんな状況に陥っているのか。

「ハヤト、煩い、わよ……。たいした怪我じゃ、ないわ……。ただの、かすり傷よ……」

そう言ってにっと笑ったミサキだが、脂汗を流したその顔で笑っても余計に心配になるだけだ。
丁度その時手術の準備が出来たらしく、ミサキは運ばれていった。

ハヤトは呟く。

「何にやられたんだろう……」
「何か四足歩行モンスターにやられた感じですね」

図らずとも同時に呟いたのは、何時の頃から居たのか殴りメディックとして有名なソラ=ホシノだった。

彼女は思考の海に沈んでいるらしく、ぶつぶつとまだ何かを言っている。
そんな彼女から離れ、今度こそ薬泉院の外に出た。

「四足歩行モンスターねぇ……」
「そういうの、沢山居るよ。階層にもよるけど」

ライトとメルの会話に、ギルドメンバーはそれぞれ思う。

だが結局たどり着く結論は一つ。


「……《サイレン》、情報待ち」


セシルの言葉に、メンバー全員が頷いた。








その後。
《ラガード公宮》からミッションが出された。


『突如第二階層に現れたモンスター『スノードリフト』を討伐せよ』


それは生き残った《サイレン》メンバーからもたらされた、新種モンスターの話……










────

世界樹パロ新連載です!
今回はメンバーが決まっている中で、まだ活躍していなかった《アルミラージ》の話です。
彼らは登る事よりもモンスター退治に重きを置くギルドなので、それに見合った内容の話にしていきたいと思います。
それで初代『世界樹の迷宮』からモンスター引っ張ってくるのもあれかと思いますが(汗)。
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