特殊作品

□時と狭間と輪廻の輪
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WHITE FRIEND





「え……? 珪……? 何で……」



驚いた。
実際のところ飛び起きた。
KKはいつもの如く、眠っているのかいないのかという状態だったのだから。

そして駅員である自分が、利用者の来訪に気付かないとは思っていなかった。
今までは全て気付いていたから。
利用者の方から話しかけられた経験は、これが初めてだ。

その動揺を取り繕うとしたが、それも出来なかった。



「………修、か?」



懐かしいな、友よ。

そんな臭い台詞を、思わず呟いていた。










「そ、か…。俺は死んだのか。何で死んだかな……地面が揺れた後の記憶がないから、多分地震だと思うが…」
「俺が死んで、何年経ってた?」
「26年、俺53歳だった。結構長い時間経ってたんだな、改めて考えてみれば」

椅子がないから、立ったまま会話。
本当、こういう時にベンチが欲しいと思う。

「それで、珪は? 元気だったか?」
「死んでんのに、元気も何もないだろ」
「確かにな。でも今此処で頑張ってる姿見ると、そう聞きたくなるだろ」
「頑張ってるぅ? お前、目ぇ腐ってないか?」
「あ゙ぁ? 言ってくれんじゃねぇか。若くして死んだ分、てめぇの頭は青臭いままだな」

遠慮のない会話。
懐かしい分、過激になるのは否めない。

だがDTOの表情は笑顔が絶えなかった。
KKも顔にこそ出ないが、楽しいと思えた。

だが時間の概念がない場所でも、タイムリミットというのは来る。



 カタン… コトン…



魂を巡らせる汽車が走る音。

別れの時。

ふ、と言葉が途切れて、DTOの表情も徐々に儚い笑みとなっていく。


「珪」


DTOは笑う。
泣きそうな顔をしているくせに。

適当なようで情に厚い彼らしいと言えば、らしいのだけど。


「俺さ……本当は後悔してた」
「後悔? 何でだ?」



 カタン… コトン…



「珪に何も出来なかった事、珪に何もあげられなかった事」
「──────否、十分貰ってる」



 カタン… コトン…



「…よかった。それだけが不安だった。仕方ない事だったとはいえ、一人で死なせた事に凄く後悔した。サトウの時もそうだったから、少しトラウマになっちまってさ」
「サトウなら大丈夫だぞ。今頃きっと新しい人生エンジョイしてるさ」



 ガタン… ゴトン…



「って事は此処でサトウに会ったんだな。いいな、『灰色の駅員』って」
「おっと、まだ役割渡すつもりはねぇからな」



 ガ、タン… ゴ、トン…



「んな事分かってるよ。ただ言ってみただけだ」
「だろーな。お前にこの仕事向かねぇよ」



 プシュー…



汽車が止まる。
扉は開いたが、彼はすぐには乗らなかった。
KKの目を真っ直ぐ見ながら口を開く。

「安心した。生きてる頃よりずっといい顔してるしな」
「……いい顔?」

KKは思わず顔に触れる。
彼と話し込んでいる間全く表情が変わらなかったのに、いい顔?

KKがかなり困惑しているのに気付いたのか、DTOはぶはっと吹き出した。

憮然とした思いになるKK。
それも次の瞬間には消えていた。



「何年腐れ縁してたと思ってんだ。そのくらい分かる!」



からからと一通り笑ったDTOは、右手を差し出して笑顔で言った。



「またな、悪友」



KKがそれに応じないわけがなかった。
力強く握手し、DTOは汽車に乗って彼方へ去っていく。


KKは握手した右手をじっと見つめた。

暖かかった。
体はない筈なのに。
繋がりが、暖かかった。

これからもこんな繋がりのある人々と会う事になるだろう。
その時もまたこうやって、笑顔──自分には出来ないけれど──で別れられたらいい。

そう思う。



 ポワッ



「─────え…?」

見つめていた手から、サッカーボール大の光の玉が浮かび上がる。
それは何処かの風景を映していて。


「あぁ…」


思わず感嘆の吐息を吐いていた。

黒髪黒眼の日本人形のような少女。
KKには一目で分かった。
容姿は全然違うのに、すぐに分かった。

これは今のサトウだ。
彼……否、彼女は本当に幸せそうに笑っている。


よかったと思う。
そして願う。
このサトウも、今行ってしまったDTOも、まだ来ていないロミ夫もジャスティスもハジメも。

大切な人達みんな、幸せであってほしい。

「なんて、我が儘かな……」

だがそう願わずにはいられない。

自分の意志で此処にいるKKはいわば、理(ことわり)から外れた人間。
そんな人間が正常な輪の中にいる人の事を想うのはおかしいだろうか。

「現実世界を見れる光か。俺もとうとうこんな事出来るまで、長い時間駅員してたんだな」

光の玉を上に放り投げる。

玉はある程度上昇した後、花火のように弾けて消えた。





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