特殊作品

□時と狭間と輪廻の輪
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WHITE BLACK





かくん、と首がもたげた時、はっとKKは目を覚ました。
時間の概念がないこの空間では、どの程度の時間が経ったか全く分からないが、己が目を覚ましたという事は利用者がいるという事だ。

さて、その利用者なのだが……


「ほー、随分老け顔の『駅員』だな。お前何歳? その前に此処は何『ポイント』だ?」

「…………」



第一印象、なんて失礼で馴れ馴れしい奴だ。










彼が『灰色の駅員』だという事に気付いたのはその後だ。
何故すぐに気付かなかったかという理由は考えなくとも分かった。

豪快な刈り上げにサングラスとピアス。
適当に羽織っている駅員のコートの前は開いていて、その下は上等な黒スーツ。
腰には刀を下げている。

生前はヤのつく自由業だったとしか思えない。

「あ? 無視かよ。同業者同士仲良くやろうって気はねぇのか?」

そう言われれば其処までなのだが、流石に自ら進んで仲良くなろうとは思わない。

相手があれだからどうのという事ではなく、ただ単に苦手なだけだ。
生前、ヤクザをターゲットとして始末した事は、一度や二度ではないものだから。

「……戻ったらどうだ? 仕事放棄だぞ」
「別に短い間は平気だって。一応身代わり置いてあっから」
「身代わり?」
「『一条』のおっさんには会ったか? 奴の守人の男だよ」

無言で思い出してみる。

前に『駅』に訪れた『一条』一族の人間、確か一条 司(イチジョウ ツカサ)といったか。
そう言われればその側に模範の部下如く、何も言わずにたたずむ男がいたような気がする。

何も主張をしないから、あまり印象に残っていない。

「あいつは生前からのダチだ。同じ幹部だったくせに甘っちょろいとこがあってな、ちょぉっと軽く頼んだら引き受けてくれたぜ」

あっはっは、と悪気もなく笑う彼を横目に、KKはその人の事を不憫に思う。

友人はもう少し選んだ方がいいぞ。

「俺は蔵之助だ」
「偽名だろ」
「……何でそう思う?」
「勘だ」
「鋭い事で。……瑞千 蔵哉(ミズチ クラヤ)だよ」
「俺はKKだ。本名は笠原 珪(カサハラ ケイ)」
「成る程『KK』だな。…………」

不意に黙る蔵之助。

「……『Mr.Killing Killer』?」
「…………分かるか」

元という言葉かつく上、誤魔化しても仕方のない事なので正直に白状する。

反応は大概が怯えた奴ばかりだったが、彼がそんな玉でない事は短い間に分かっている。
実際、面白そうに笑った。

「へぇー、『Mr.KK』だった奴が『灰色の駅員』ねぇー」
「それはお前も同じだろ。真っ当な仕事してなかった奴が何で『駅員』なんかしてる?」
「ん? 俺? 特に理由なんかねぇよ。強いて言や資格持つ奴が二人いて、俺はジャンケンして負けた」

嘘だな、先程と同じく感じた。
だが全てが嘘というわけではなさそうだ。

少なくとも、有資格者が二人というくだりは。

「そういうお前はどうなんだよ。何で『駅員』やってる?」
「俺か……償い、かな」
「しょうもねぇ理由」

もっともその理由も、此処に残った理由の切れ端にすぎない。

まだ、いまいち自分でもその辺りが分かっていないから。

「もういいだろ。とっとと帰ってくれ」
「けっ、俺もいい性格じゃねぇ事は自覚してたけど、あんたも一層やな性格してんな」
「誉め言葉として受けとっとくぜ」
「へっ、またなMr.KK」

現れた時と同じようにすっと、消えていった蔵之助。
自分の担当している『駅』に戻ったのだろうが、「またな」とはどういう事だ。
もう非常識どもの相手は嫌だぞ。

……と、拒絶しても向こうから寄ってくる事は理解済みなので、深い溜め息だけをついた。


──そういえばあいつ、別の『駅』に飛んでこれるなんて、どうやってしてるんだろうな……


そんな事を、またぼんやりとした意識の中で思った。










─────

『駅員』同士の邂逅。
うん、元裏世界の人間同士、もっと殺伐とした感じにしたかった。
そして蔵之助が『駅員』だという事にめっさ違和感を覚えるのは何故だ。
自分が設定したって言うのに……!

本当は蔵之助の名前をそのまま名字つけたかったんですが、何かおかしい感じがしたので変更しました。
一条司令の名前は……あれしか思いつかなかったよ(笑)

H22/8/2

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