特殊作品

□《ジズ》の終焉
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1、空の王者が墜ちた日





現在新参ギルド《ケツァール》は、ギルド登録をしていながらも、メンバーが三人しかいない。
その為、足りない分はフリーの冒険者を雇い、世界樹に挑んでいた。

人を雇う分、金はかかるが、回復役がおらずしかも二人が新米冒険者では、迷宮を進んでいくのはかなり危険だ。

まぁ、三人の意識は「マイペースにいこう」で共通しているので、進めても進めなくても、利益が出ても出なくても特に気にしない。

今回のメンバーは三人と、完全攻撃型のブシドー・タイマーに、回復役のドクトルマグス・アイス。

メンバーのバランスは丁度よく、少しは迷宮の深い所へ進めるのではないか、そんなちょっとした期待を抱いていた矢先の事だった。

「……あれ?」
「何で入り口周辺にこんなに人が?」

アイスの疑問は、同時にKKの疑問だった。

不自然にざわついている世界樹の周辺。
特に出入り口付近はもっとも人が集まっていて、何が起こっているのか全く見えない。

とりあえず迷宮探索は中止だろうと思いながら、人垣に近付いてみる。


「すみません! 通ります!!」

「《公国薬泉院》の者です! 道をあけてください!!」


まるで押しのけるようにして隣を通り過ぎたメディック達。
彼らの通った後はまるで道ができたように開いて、其処から中心にいた人物を目にできた。

魔女のようなとんがり帽子に黒いコート。
露出した腕には不思議な模様のペイントが施してあり、杖に剣の刃が装着されたような不思議な形状の武器を持っている。

それを確認できたKKは、ちら、と隣にいるアイスを見た。

帽子はかぶっていないが、青みがかった白いコートに、短い剣の刃がついた杖。
露出した腕には不思議な模様のペイント。

おそらく間違ってはいないだろう、倒れている人物はドクトルマグスだ。

そして開いた道をメディック達が、ドクトルマグスを担架に乗せ走り去っていく際、一瞬だけ見えた顔つきは、性別不詳ともとれそうなほど整った男性……

「マサ…………嘘だ……」
「……ロミ夫?」

呆然と呟くロミ夫に不穏な気配を感じ、其方に向く。
彼はメディック達が走り去っていった方向を凝視して、それからKKが呼びかけた事にも全く気付かず走り出す。

勿論追いかけようとした。
だがその前に聞こえたタイマーの呟きが、KKとDTOの足を止めた。

「空の王様が墜ちた……」
「どういう事だ?」

そう聞くと、返ってきたのは本当に驚いているアイスの顔。

「二人は《ジズ》を知らないんですか?」

……何処となく馬鹿にされている気がするのは何故だろうか。

ぴき、とKKの額に青筋が浮かんだが、直後に気付いたDTOにいさめられる。

こういう時、人を観察してきた故の鋭い人間は面倒臭い。
何にどういう反応を取るか何となく分かるから、すぐに対処する行動をとられてしまう。

大きな溜め息を一つして、気持ちを落ち着かせてからアイスに向き直る。

「《ジズ》ってギルド名か?」
「それしかないと思いますが」

いちいち癪にさわる事を言う(見た目だけ)ガキだな!

流石に穏和(無関心気味と言った方が正しいかもしれない)なDTOすらも不快に思ったところで、漸くアイスは説明し始めた。

「現在この『永遠の世界樹』の制覇に一番近いとされるギルドは三つ。《アイオーン》、《ゲーデ》、そして《ジズ》です。その三つのギルドの実力は均衡していて、ある意味冒険者達の象徴となっています」

いえ、『だった』、が正しいでしょうね、この状況の場合。

そう薄く、苦そうに笑ったアイスは、《公国薬泉院》がある方向に顔を向ける。

「《ジズ》と今はない《アウローラ》は、実力こそ差はあれど、ライバル同士だった事は有名でした。彼は元《アウローラ》でしょう?」

成る程ライバル……否、あの反応の激しさからして、友人でもあるのかもしれない。
とにかく知り合いのギルドの脱落は、心穏やかでいられなかったのは間違いないだろう。

「以前にも有名大物ギルドが全滅した時、パニック騒動で多くの冒険者が武器を捨てました。似たような事が起こらなきゃいいんですけど……」

そう言うアイスも含め、彼らは懸念が間違いなく起きる事を察していた。








「『天空の王』が消えた」


そのニュースは当日の内に、瞬く間に広がった。

悲鳴を上げる者、呆然とする者、反応はそれぞれだったものの、大きな混乱が起きたのは言うまでもなかった。









────

《ケツァール》担当二回目、ジャスティスとの合流話となります。
『裏世界設定』と合流順序を同じにしようと思っていたんですが、ハジメに設定した内容の所為で、ジャスがいないとうまく話の流れが掴めなくなった為、交換した次第でございます。
まぁ、結局合流するので、別にいいですよね。
ジャスとアイスの服装については、元ネタを知っている人ならば「ん?」と思ったでしょうか。
二人とも女ドクトルの衣装に近いものを着ています。
最初は男ドクトルの衣装に近い表現にしていたんですが、なんか、違う気がしまして……
元を知らない人は、全キャラの服装は戦闘に耐えられる武装しているイメージで結構です。

次はロミ夫による《アウローラ》と《ジズ》の関係の説明会になります。



以下、話に出てきたギルド名の元ネタ

ジズ…ヘブライ神話に伝えられる赤い巨鳥。某幽霊紳士とは関係ない、多分。身の丈は地表から天の頂に達し、翼長は太陽を覆い尽くしてしまう不死の存在。穏やかで優しい性格をしており、小鳥の庇護者である。
アイオーン…グシーノス主義においで天界そのものと、その支配者の両方を指す。元はギリシア語で『永劫』や『永遠なる王国』という意味がある。
ゲーデ…ヴードゥー教にて死と放蕩(もしくは死と生殖)を司る聖霊(ロア)。死者の魂を冥界(ギネー)に送る役目がある死神的な存在。墓地や十字架に住み、黒い山高帽に燕尾服、暗い色の眼鏡(サングラス)をかけた姿で現れ、葉巻をくわえてリンゴを左手に持っている事が多い。

本当は『空のジズ』に合わせて他の二つも『陸のベヒーモス』と『海のリヴァイアサン』にしようかと思った。三大獣。
流石に単純かと思って止めましたけど、いつかそのギルド名出すと思う。

拍手掲載日 H25/1/5〜6/4
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