花売りと魔法使い

□第7話〜第12話
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第12話
お題:夢

地平線すれすれに落ちてきた太陽は、切り立った粘土質の崖をオレンジ色に染め上げ、荷車の屋根の上で割れ鐘のような鼻歌を歌っている花売りのシルエットをも、金色の輪郭で縁取っていた。

ダッダッダダイダ
ダダイダーイ!
肌色のォオ髪の毛にィ!
緑で串焼きダダイダーイ!
チャックでパッチン…

唐突に歌をやめて荷車の下に視線を落とす花売り。
「…なんですかその歌」
軽く息を切らした魔法使いが立っていた。
「あぁ!?肌色の髪の毛の歌にきまってんでしょ!このダダイダーイが!」
「ちょ、理不尽すぎ…ぎゃああああ!」
花売りは荷車から飛び降りざまに、手刀で魔法使いをまっぷたつにした。まっぷたつにした後、突然目を丸くして魔法使いをじっと見た。
「おまえって明日帰ってくるんじゃなかったの」
「えっ?え、あ、ちょっと色々あって早めに帰ってきたんです」
花売りの眼の深い緑色に、魔法使いの心拍数は否応なく上がる。
「ま、まて…大変だッ!明日帰るのが今もう帰ってきてるって事は、今ってもう明日かァアアーッ!やべええええ気付かなかった!あたし寝るの忘れたーッ!寝るッ!」
「ち、ちが……」
魔法使いが言葉を挟む間もなく、花売りは布団もかけずにいきなりその場の砂利の上に眠りだした。ものすごい就寝速度だった。1秒でいびきをかきはじめた。
早過ぎでしょ…っつーか、なにその物理を無視した論理展開…。
唖然とする魔法使いの前で、花売りは寝言を言い始めた。
「…う〜ん…それたべられんの?…よこせ…」
ぶはっ、夢の中で食べ物奪ってるよこの人!
魔法使いは一瞬ふき出して、それからちょっと花売りの寝顔を眺めた後、泣くような笑うようなため息をついた。
間違いなかった。花売りに会えばきっと明らかになると思って、急いで帰ってきたけれど。
ああ僕は、やっぱり
花売りの、錆びた鉄扉のような歯ぎしりを聞きながら、魔法使いはもう一度、ため息をついて胸を押さえた。
「ううう…やっばい、どうしよ…なんかもう、好きすぎて…苦しい…」
まっぷたつになった体を、音をたてないように静かに繋ぎ、魔法使いはよろよろと屋敷に帰っていった。
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