ガロッツのブルース

□case-02
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「よお、エリート。ずいぶんご機嫌じゃないか」
ぐにゃぐにゃになってカウンターに突っ伏す俺の背後から、針でつつくようなテレパシーが飛んできた。俺は無視を決め込む。誰だかは判っている。ヴァインシーだ。くされ吸盤野郎のグート星人。不快な事にこいつは俺と同業者であった。
「あらま。くされ吸盤野郎じゃん、イヒヒッヒ」
店の隅に設置されたバーチャル格闘ゲームに向かって嘔吐していたキュウがそんな事を言ったが、ガロリンガルを装着していないヴァインシーは何を言われたか判らず、馬鹿にした目で一瞥しただけで、俺の隣に腰かけた。
「相変わらず犬と仲良しごっこか。さすがエリートだぜ、ジ=エット」
ヴァインシーが俺をエリート呼ばわりするのは、俺の人種が、シャス16星人だからだ。シャス16にはビジネスの成功者が多い。惑星自体が先進惑星とか言われいて、緑豊かなまま空間増幅法ビルディングが建ち並ぶ綺麗な都市で、宇宙連合の会議場まである。
要するに、そんな優秀なシャス16星人のくせに、こんな吹き溜まりで犬と酔っ払っている脱落者の俺への、皮肉というわけだ。
「知ってるぜ?また負けたんだろ。クズだなあ。お前、本っ当に、向いてねえよブリーダー」
うるさい男だ。馬鹿馬鹿しい。つき合うだけ時間の無駄だ。
「わかんねぇなあ。お前さ。クズのくせに、何のプライドなんだ?それ。ロマンでも追いかけてるつもりか?なめてんの、この仕事。エリートぼっちゃんの気質が抜けてねえクズはさ、」
ヴァインシーはカップに僅かに残っていたビールを、俺の頭にかけた。
「頭、冷やしな」
ほんと幼稚なクズだなこの男は。いいかげん何か言い返そうかと思ったが、俺は、言い返す言葉が無い事に気づいた。
俺もまた、クズだからだ。たぶん、こいつより。
何だか、非常に鬱な気分になる。
俺だって、こんな人生を最初から望んでいたわけじゃない。ヴァインシーみたいな奴にはわからないかも知れないが、世の中には不運でクズになる奴以外に、俺のように、ロマンのために自分で何もかも駄目にしちまう馬鹿が、たまにいる。
そういうのを、最低のクズと言うのだ。
そんな事知っている。作家になりたくて家を出てきたんだ、てめえよりはものを勉強しているつもりだ、俺は。
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