花売りと魔法使い

□第7話〜第12話
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第11話
お題:荒れた大地

先ず、闘技場の地面がごっそりめくれ上がった。
「ギャアアアア」
「ちょ、何、何、ななな」
「つぶれるゥゥ!」
「助けてぇええ」
地下深くから貴重な古代遺跡が出現。上空では長芋が、大気圏突入と共にすりおろされ、
降り注ぐとろろ。そこに蛾の大群が飛んで来る。
何が起こったのか認識する暇もなく、その場にいた魔術師、観客、あらゆるものが魔法使いの魔法に飲み込まれていた。
「導入部…運命が扉を叩く音…弦楽器、徐々にクレッシェンド…」
ぷちぷちと呪文を呟きながら、魔法使いは精密な動作で針を振るう。
「再度、テーマ…」
タタタタ〜ン、のリズムでその場に居た半数の人々の背中から腐ったシンデレラ城が生えた。
同じリズムで残り半数の頭にシオカラ500キログラムが発生。
一瞬の空白の後、響き渡った悲鳴が遺跡に反響し、旋律を奏でる。シオカラが凄い勢いでシンデレラ城の窓に飛び込んでゆく。破裂するシンデレラ城。飛び交う破片!椰子の木の暴挙、なめし皮の咆哮、高速回転するドラッグストア、五右衛門風呂が大爆発…
混沌、
更に次ぐ、混沌!
カオスに内在する、あらゆる凶暴な可能性が、タクトにあわせて歌い出す。それらは重なり合って、複雑なドミノ倒しのように、新たなうねりに続くリズムをも刻んでゆく。
その荒れ狂うBGMを目を閉じて聴きながら、魔法使いはどうしようもなく心を痛めていた。

なんでよ
僕のいないとこで弟子と2人でいちゃいちゃなんてしないで
おねがいだから
怪獣みたいなお姉さん、
あなたはいつも怪獣みたいなお姉さんでいてよ
普通の女の子みたいなことしないでよ
他のどんな人とも違う怪獣みたいなあなたが、

僕は、

「……!」
魔法使いは突然、針を振るのをやめた。
チャルメラ、人間、スポンジボブ、へその緒、エキゾチックアニマル、学ラン、都バス、天津甘栗など、浮いていたものたちがバラバラと音を立てて地面に落ちる。
「え……?待った待った。いま僕、何考えてた?もしかして僕、お姉さんのこと…え、そうなの?えぇ!?まままじ!?どう思う?」
魔法使いは、とろろまみれで足元に倒れていたサテュロスを振り返った。
「知りませんよォオ!頼むからもうあんた帰ってくださいよォ!」
必死の形相で泣き叫ぶサテュロス。
「ご…ごめん…わかった帰る」
魔法使いは、完全に破壊された闘技場を、逃げるように後にした。
この事件はのちに「レギオーヌの大地獄」と呼ばれ、その復興作業をきっかけに、聖なる魔術師のギルドと黒魔術師ギルドは和解する事になるのだが、それはまた別の話。
これ以降、魔法使いが魔法闘技会に呼ばれる事は、二度となかった。
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