ガロッツのブルース

□case-06
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『おい!ねー!からあげ!ジェットン!ルルサ虫の唐揚げおかわりぃ』
キュウのへべれけ声に頭を上げると、カウンターに並べられていた10皿のルルサ虫は全て空になっていた。
ざけんなこの野郎。
キュウにはある程度贅沢する権利はある。だがさすがにここまでむちゃくちゃなペースで飲み食いされたらまた家賃が払えなくなるではないか。
「おかわりじゃねえだろ!てめえさすがにいい加減にしろキュウ!だいたい今日は不戦勝で勝っただけじゃねえか、ちょっとは遠慮しろっての!家賃どうすんだよおいっ」
『なんだとコラ。不戦勝キングだぜオレはっ!くわせろくわせろルルサ虫』
「駄目だ。芋にしろ」
『ああ?やだよ。イモうまくねぇじョん。もそもそしてっしよォ』
「くっ…頼むからイモにしてくれキング…金が要るんだ、言っただろ、家賃もそうだが、スペースシップがどうしても…、」
俺が言いかけた話を途中でブッた切り、キュウは素っ頓狂な鳴き声を上げた。
『うあ?ジェットンしらねーの?』
「知らねぇって、何を」
『バルカッソ杯って優勝すっと賞金100万マッコイと、あと最新型のキャンプ型スペースシップもらえるんだぜェ』
「なに!?」
今度は俺が妙なテレパシー波長を漏らす番だった。
「スペースシップが!?もらえんのか!?」
今日キュウが奇跡的に不戦勝で決勝トーナメントの切符を手に入れたバルカッソ杯は確かに、シップメーカーであるバルカッソ社が主催するドッグファイトだ。だがケチで知られるバルカッソ社が2ディラ期毎に開かれる中大会ごときでそんな太っ腹な賞品を出すなんて、馬鹿な。
『だってよォ、ザッピんとこの犬がそう言ってたぜ!それにほら、このチラシ見ろよ、オレ字ィ読めねえけど、これスペースシップだろ?スペースシップの絵が描いてあんだからくれるってことじゃね?』
実際、キュウの差し出した大会のチラシにはそう書いてあった。
「ま…マジか…」
俺の触角が一瞬、興奮に逆立つ。もしも、
もしもキュウが決勝トーナメントで、勝っちまえば、
シップが手に入るってことか?これ…
いやまて。そんな簡単に勝てるわけない。不戦勝で勝ち上がったキュウが、いきなり優勝なんてそんな甘い話があるわけ…、
『勝ちゃいいだしょ?ルルサ虫くわせろよ、ねっ!』
「…勝てる気なのかよおまえ」
思わず触角をついて出た俺の問いにキュウはこう返した。
『だってお前が勝たしてくれるんだろ?』
まるで、俺が勝たせようと思ったら勝てないはずがない、とでも言うような言い方だ。くそ。
「…言うじゃねえか」
俺は舌打ちし、いつの間にか俺の膝の上で眠ってしまったデコの柔らかい体をそっと撫でた。寝ているはずのデコがむにゃむにゃと何か言いながら俺の腕に触手を絡ませてきて、情けない話だが、俺はその感触に、俺が決断しなくてはならないことを教えてもらった気がした。
「なら俺の指示ちゃんときけよな…。そこ約束すんなら、もう1皿だけルルサ虫食っていい」
やりい!と叫んでキュウはニッ、と口角を上げてみせた。
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