ガロッツのブルース

□case-06
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追加したルルサ虫をひょいひょい口に運ぶキュウを横目に、俺はこいつが勝てる方法を考えていた。
絶対的に必要なのは対戦相手のデータだ。それから俺の指示をちゃんと聞こえるようにするインカム。スタミナ強化も必須だ。1週間で大した事ができるとは思えないが…。
緑色の発泡ハイの瓶を傾けると最後の一滴がポタッとグラスに落ちて、終了。
「くそっ」
と、小さく毒づいた俺に向かってカウンターの隅の方から誰かがテレパシーを送って来た。
「お前が酒を好きなだけ飲めない理由は、だ。ジェットン=ジ=エット。1マッコイにもならんガロッツなんぞを2匹も飼っているからに他ならない」
カウンターの左端で生蟹酒のロックなんか呑んでいる円筒型のキュビク星人、あの暗い体色は間違いない、フジタ=ルーワニカ、このエンラエの店の数少ない常連の一人である。
「うるせえな…あんたはそれしか言えねーのか?フジタ」
顔を合わせる度に、二言目にはガロッツは無駄だだの飼ってろくな事はないだのぐちゃぐちゃと絡んでくるこの中年キュビク野郎が、俺は嫌いだった。何でも判ってるような顔しやがって説教たれてくるのも面倒臭い。てめえに俺やキュウやデコの何が判るって言うんだよ。
「お前、そのピンガロとできてるんだろう」
突然、言われて俺は総毛立った。ばれてんのか…?まずい、こいつまさか保健所に通報…
「…ち、違ェよ!こいつは処分されかけてたから俺が引き取っただけで…」
「別に通報とか面倒臭い事をする気はないが、ピンガロなんぞに惚れるお前はつくづく愚かだなと思ってな…金も無いくせに道楽で雑種の闘犬を飼うだけじゃ飽き足らず、とうとうピンガロにまで手を出したと思うと気の毒でならん。そんなに"よかった"か?こいつのテクニックは…」
全部聞き終わる前に俺はフジタの円筒型の体の頭頂にあいた穴に手をかけ、力を込めていた。
「それ以上言ったらぶっ殺す」
「ふん…」
フジタは体を引き、
「お前の人生は絶対にろくでもない事になるぞ」
捨て台詞を吐いて勘定を済ませると、店を出ていった。
「ヒヒヒかっけえ!」
キュウが笑いながらルルサ虫を投げてきた。
「うっせえ」
俺は少し冷静になって恥ずかしくなり、突然膝から落とされてむにゃむにゃと目を擦っているデコを抱え、
「…帰るぞ。ちゃっちゃと食え」
席を立った。
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