【ワイルドヘヴン】

□Number-08
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森の中。
大きな大きな杉の樹の下で独りの少年が泣いている。
少年は兄を待っていた。
この島では少年はいつまでも7歳のままで、そして少年の兄も、はたちのまま。
杉の樹も深緑の苔を生やして、空にはカケスの鳴く声、どこかで猿の遊ぶ音も聞こえる。すべてはあの頃のままだった。
でも少年はそれらが、つかの間のまぼろしである事を知っている。知っているけれども、ここに来ずにはいられない。兄に逢わずにはいられない。この島以外には泣く場所など、無いのだから。
「ミツ、ほら、何を泣くの?石南花が咲いているよ」
ややテノールの兄の声に、少年は振り返る。
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