ガロッツのブルース

□case-03
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まさか絶望のふりをしてやってくるなんて。

:ヒジリヤマ

ヒジリヤマはごく普通の、地球の中学生だった。ごく普通に、学校に通い、ごく普通にクラスに馴染めず、ごく普通に、イジメというものをうけた。
今となっては、そんなもの別に何てことはなかった。と、ヒジリヤマは思う。現在のヒジリヤマの生活に比べれば、遥かにマシな境遇である。
それでも、当時はやはり辛くてたまらなかった。死にたいとすら思っていた。
ズタズタにされたノート、見つからない上履き、水浸しの椅子、体に巻かれた運動マットの圧迫感、クラスメートの囁き。
ヒジリヤマの足をマンションの屋上へと向かわせたのは、そういった、彼をとりまく理不尽な世界そのものだった。
世界征服でもしてこの世界を初めから作り直せば、こんな苦しみを味わわなくて済む、よき世界になるだろうか?
いいや、むしろ。自分自身をリセットして作り直した方が、手っ取り早くていいかもしれない。
その時のヒジリヤマはそんな風に考えた。そして屋上のフェンスを乗り越え、両手広げて。

リセット!

確かにリセットは行われた。ただし、別なものになったのはヒジリヤマ自身ではなく、ヒジリヤマを取り巻く世界の方であって、それも、ヒジリヤマが思っていたような幸せな変化ではなかった。
最初は何がなんだか全くわからなかった。耳をつんざく超音波。叫び声すらかき消され、気が付けばヒジリヤマは、見たこともない奇妙な素材でできた檻の中に閉じこめられていたのである。
ヒジリヤマが理解したのはだいぶ後になってからの事だが、この時の超音波は、よろずガロッツショップを営むグート星人の狩り船の、エンジン音であった。ヒジリヤマの足がまさに屋上のコンクリートから離れた瞬間を狙って、まるでカラスが獲物をかすめ取っていくように、狩り船は光線捕獲網で彼の体をまんまとゲットしたという訳である。
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