ガロッツのブルース

□case-04
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だってそれぐらいしかできないから

:デコ

デコは、真っ白でふわふわした弾力のある体を引き伸ばして、幕のようにすっぽりとワーミ星人の体を包み込んだ。
ワーミ星人は呻くような、拡散したテレパシイで
「ああ、いとしいひと」
と言った。もちろんガロッツであるデコにはそのテレパシイはきこえない。けれどもデコは、デコのお客たちがデコの中に「いとしいひと」を見ている事を知っている。なぜなら「いとしいひと」の代わりを勤める事は、デコにとって、ただ一つの仕事であり、生き方だったからだ。
様々な星の"人間"たちの、「いとしいひと」の代わりをする犬、ピンク・ガロッツ。デコたちモマ星犬は、ピンクガロッツの代表的な犬種である。モマ犬にはほぼあらゆる種の生き物との性行為が可能という、珍しい特性があった。自在に形を変えられるモマ犬の柔らかな体は、特に戦時中、多くの孤独な宇宙人類たちに快楽を与えてきた歴史を持っている。
そのモマ犬を中心としたピンクガロッツたちを、マンション型の建物の中で、一室につき1匹ずつ分けて大量に飼い、客をとらせて儲けにする商売を、"小屋"と言った。
戦後はおいしいビジネスだった"小屋"も、時代を経た今は非道徳的、退廃的だとして世間の風当たりが強く、衰退の一途を辿っている。
デコの"小屋"を運営している背の高いヒルル星人も、ピンクガロッツのブリーダーとして一時は勢いのあった男だが、業界そのものが風前の灯火である中、もちろん彼も落ちぶれて、この惑星ラーテアのスラム街、イア85地区で、デコ1匹だけを使って商売している。
デコは母親の代から彼の小屋にいたが、業績の不振に伴ってイライラをつのらせては暴力をふるう彼を、いつも、かわいそうなにんげんだなあ、と思っていた。
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