ガロッツのブルース

□case-05
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みどりろ、とんがってる

:祐馬

おかあさんはぼくのことがだいじじゃないんだ。
船木祐馬はそう結論付けた。そうでなければ、母が昨日メカギャオランのおしゃべり貯金箱を買ってくれなかった事も、今日、自分を祖母の家に預けて出かけてしまった事も、説明がつかなかった。
3歳の祐馬は、理不尽、という言葉こそ知らなかったものの、感覚としてはそれに近いものを抱いて、ずっと眉間にしわを寄せていた。未だ母親と祖母以外の人間をほとんど知らない祐馬にとって、母親は、自分ひとりのために存在する生き物である。自分が泣けば母親はすぐに現れなくてはならない、また、こうして眉間にしわを寄せていれば、すぐに抱き締めてくれなければならないはずであった。
「ゆーちゃん、おかあさんは、お出かけだからね、我慢しようね」
必死でなだめようとする祖母の言葉にも、祐馬は返事をしなかった。祖母には悪いが、自分は今すごく怒っている、というアピールを、母親が現れる前に止めてしまっては意味がない。態度を軟化させるのはまだ早いのだ。
「ゆーちゃん、」
祐馬は頭まで毛布を被って眠ったふりをした。隣の部屋から電子音が鳴り、
「あらら、おばあちゃんちょっと電話出てくるね」
と、祖母は腰を上げた。ひとり部屋に残された祐馬は毛布の隙間から顔だけ出して外の様子を窺う。
母親はまだ現れない。
毛布ごとドアの所まで這って行き、覗いてみるが、廊下にも母親の気配はなかった。祐馬はサッシ窓を振り返る。
あそこからくるかも
毛布を引きずって窓に近付く。磨り硝子の向こうで緑色の木が揺れ動いているのがわかった。母親が隠れているのだ、と思い、祐馬はサッシ窓に手をかける。
からり、
「!!」
緑色の木が跳ねた。否、それは木ではなかった。では何なのかと問われても未だ世界を知らない3歳の祐馬は答えを持たない。だがその問いにはたとえ大人でも、彼の母や祖母だったとしても答えられなかっただろう。緑色で、巨大で、先の尖った手と足、尻尾、
「…だれ?」
祐馬は尋ねた。緑色のものは大きくて真っ赤な目玉をギョロリと動かして、
「だれ?」
祐馬の言葉を復唱した。
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