知らない。

□ハニーハント
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ダダ井は腕のいいハニーハンターだった。壷のようなものを抱えて山に行っては、その壷を蜂蜜で一杯にして帰ってきた。だがダダ井は貧乏だった。なぜならばダダ井は、蜂蜜をとるのがものすごく上手い代わりに、蜂蜜しか食べることができない体になってしまっていて、とってきた蜂蜜をほとんど全部自分で食べないと死ぬからである。
残ったほんの少しの蜂蜜を売っても、下手なハニーハンターの儲けの半分にも満たないので、ダダ井はずっと貧乏。
そんなある日、いつものように山に行ったダダ井は、ちょうどいい蜂の巣のところで野生のクマと出くわした。
このクマは、名前をフルシェンコと言い、趣味はキノコグッズ集め。
ダダ井はすごく蜂蜜が欲しかったし、蜂蜜がないと餓死するので、譲ってもらいたいのだが、やはりそれを直接口にするのははばかられた。はいはい、出た出た、若者特有の傍若無人精神。などと思われるのが恥ずかしかったのである。で、ダダ井は、こういう場合に分別のある大人がとる行動として、丁寧に
「うわーくまだっ」
と言った。
一方、フルシェンコも野生動物として、食える栄養源を見逃すことが未来の餓死に直結するような世知辛い世界に生きているわけで、やはりこのような場合、世知辛さの度合いが多少弱めな世界に生きる人間にはこの蜂蜜をご遠慮していただきたいところだ、と思っていたが、それを正直に告げようものなら、はいはい、出た出た自然界の掟、強い者が得る、でしょ、などと思われるに決まっているので、それは恥ずかしい。フルシェンコは、礼儀正しく、警戒心をあらわにした熊を演じる事にし、グオウ、などと言って後ずさった。
つまり双方、儀礼的に一旦引いた形になったのである。
ここでダダ井は思った。
「あれっ?いいんですか?ならいっちゃおっかな」
フルシェンコも思った。
「あ、いいんですか?じゃあお言葉に甘えて」
数秒後2人は同時に蜂の巣に飛びついた。
本当に、まったく、同時だった。誤差ゼロ。そのシンクロ率は自然界の常識を超えたため、宇宙の根源に歪みが生じた。
はじける閃光!目もくらむような!
そして次の瞬間、ダダ井とフルシェンコは2人で1つの物体・ダダシェンコとなっていた。人でありながら同時に熊である、ダダシェンコの中で、ダダ井は
「ああ、もうハチミツばっかり食ってても恥ずかしがる事はないんだ」
と思い、フルシェンコは
「ああこれからは、熊だからという理由で売ってもらえなかったキノコグッズが買えるぞ」
と思った。だがそれがダダ井とフルシェンコの最後の思考となった。
なぜならダダシェンコはもうダダ井でもフルシェンコでもなかった。新しいものとして活動を始めたのだ。
ダダシェンコ!うなる速さで霧を食い、ホバークラフト集めに夢中!

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