知らない。

□先生ありがとう
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ビッグベン風の、にせ時計塔が大きな音でにせの時間を告げた。深夜0時、と見せかけて実は昼の11時なのだ。
真夜中っぽい雰囲気をかもし出すため、満月やら野良犬やらコウモリやらが頑張っているのだが、太陽だけはどうにもならないようである。炎天下。
そこでとうとうドラキュラ先生の登場である。全身に包帯を巻いた上に宇宙服を着て日光を完全ガード。いざ出動。すると道行く人々が先生を取り囲み、
「透明人間の方ですよね!」
と、写メ。
「ちがいます、ちがいます」
ドラキュラ先生は走ってバーみたいな店に逃げた。昼だから店は開いてなかったが、先生は
「すみませんが今は深夜という設定なのであけてください」
と頼み、あけてもらった。深夜の客としてワケアリな男女っぽい人々と、シャブ中っぽい人々、あと切り裂きジャックっぽい人々にも電話してきてもらったので、すごく深夜っぽくなった。先生は宇宙服を脱いで、
「みんな、きてくれてありがとう。本日はおひがらもよく」
と言った。誰も聞いていなかった。床に吐瀉物が落ちていた。誰が吐いたのだろう。ドラキュラ先生は、シャブ中っぽい人々のうちの誰かのものだと思い、吐瀉物の落とし主を探してあげた。
「どなたか落とされましたよ」
「それは僕のです」
挙手したのは意外にも、店のマスターだった。マスターは陰気な表情でとても喜んだ。明日使う予定があったので、落として困っていたのだ。
「ドラキュラ先生ありがとう」
マスターが言った。店のみんなも言った。
「ドラキュラ先生ありがとう。ありがとうドラキュラ先生」
ドラキュラ先生は、爽やかな気持ちになった。深夜0時の設定なので、その場の全員の血液を吸ってから帰ろう、よし、やろう。
 

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