知らない。

□ハマダのくるぶし
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化粧品みたいな丸い透明ケースに、切り取ったくるぶしを入れ、コンビニで売った歯魔田は、それで大儲けしてビルまで建てた。
ハマダのくるぶしといったら今や知らない者はいない。
クソッ…うまいことやりやがって
間蚊雄は毒づいた。どうして歯魔田の汚いくるぶしなんかがこんなに売れて、自分の思いついた牛球が全く売れないのか、間蚊雄は理解できなかった。
牛球は、ガチャガチャの玉の透明な半分を牛の目玉に付けられるようにしたやつである。牛球を付けると、牛が出目金のようになり、可愛いし、牛の目にハエがあまり来なくなるから、牛はかなり嬉しいはずなので、牛はみんな牛球を付けたらいい。
間蚊雄はそう思って牛球の行商を始めた。
だが連れ歩いていたモデル牛が悪かったのか、牛球は全く売れなかったのだ。間蚊雄は先日、モデル牛をクビにした。モデル牛はかなり怒っていた。
だから今は間蚊雄は自分の目に牛球を付けて売っている。だが牛球は牛が付けてこその牛球だ。間蚊雄が付けてもその魅力が充分に伝わらないのは判っていた。
牛球ゥー、エー、牛球ーゥ、
ガチャ玉ァの牛球ゥ〜、
ポッコリ出目の牛球だヨーェ
かすれた声で間蚊雄は歌いながら、忌まし目街道を練り歩く。誰も見向きもしない。
疲れたところでコンビニに入ると、ハマダのくるぶしが売られていた。間蚊雄はくるぶしを1つ買ってみた。なぜこんなものが売れるのか、研究しようと思ったのだ。
パッケージを開封するとハマダのくるぶしはコロンと間蚊雄の手のひらに乗っかった。
小さくて、生暖かく、こりこりしている。
間蚊雄は、モデル牛のことを思い出した。
彼女には牛球がとてもよく似合っていた。
だから彼女をモデル牛に選んだはずだったのに。
間蚊雄はくるぶしを親指でコリコリと回した。
くるぶしは小さくて、人の足に付いていたものとは思えないほど頼りなく、そしてその切り口は、何だかとても残酷だった。
ごめんな、ごめんな、
間蚊雄はくるぶしを回しながら、涙が止まらなかった。
 

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