花売りと魔法使い

□第13話〜第17話
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第13話
お題:マント

「ルシルってさァ…」
屋敷に帰って来てからずっと、弟子の様子ををちらちら伺っていた魔法使いだったが、夕食の干し肉とパンをもそもそとかじりながら、漸く話を切り出した。
「ルシルってさァ…花売りのお姉さんと…つ、きあってん、の…?」
「いえ。彼女美人ですけど私の好みじゃないです。何でですか」
ルシルは淡々と答えた。
「だ、だってさ、昼間さ、なんかさ、2人で会ってたみたいだからさ…」
ずいぶん楽しそうにしてたじゃないか。魔法使いは軽く咎めるように口をとがらせる。だが、実際、咎められるのは己のほうであった。
「は?ちょっと待って、あなた何で知ってんですか…まさか鏡の術で覗きですか?信じきれない!」
「ぐはっ!な…聞いたの!人から聞いたんだよ!…ホントデスヨ…」
「このストーカー!」
「わーん違う!」
ルシルは頭を抱えた。どうしようもない。ただでさえ花売りは攻略の難しい相手であるのに、当人がこんなにも恋の素人では、うまく行きっこないではないか。
実のところルシルが昼間、大量の牛乳とチーズをお土産に花売りの所へ行ったのは、何とか師匠に脈がないかどうか彼女に打診してみるためであった。だが、結果は予想以上に最悪で。

「花売りさんはよく、ロシエール先生とお会いしていますよね。どうです?先生は」
「それ誰!」
ちょ…先っ生ぇ!名前すら覚えられてねー!
「ほら、あなたによくまっぷたつにされてる…」
「なんだあれか!魔法使いだろ!知ってる!どうってなにが!」
うわ…駄目だこれ
「ぶっちゃけた話、あの〜先生のことを、どう思ってますか?」
「ああ!あたしあれ食べたくない!」

完全に撃沈である。
これはもうどうやっても、魔法使いの恋は実らないような気がした。だが弟子としてはこのまま、尊敬する師匠が堕落してゆくのを手をこまねいて見ているだけ、という訳にもいかない。
「いいですか先生、あなた世界一の魔法使いなんだから、ほんともっとシャキッとすれば、女性の一人や二人、コロッとついて来て当然なんだ」
敢えて優しげな声で師匠の肩を叩く。
「そ…そう?」
ルシルは決心していた。
手は尽くしてやろうではないか。それでもどうしても駄目ならば(多分駄目だろうが)、他の、もっと落としやすい女性をあてがおう。と。
魔法使いの頭のてっぺんから足の先まで、しばし見つめてからルシルは続けた。
「そうですね、うん…先ずは、その有り得ない流行遅れのローブやめて、シヴァークの市場で洒落たマントでも買いに行きましょう」
「えぇ〜…先生、人がいっぱいいる場所苦手なんだけど…」
「うるさいストーカー!行くったら行くの!」
「わーん!」
魔法使いは、弟子に連れられて市場に行くことになった。
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