花売りと魔法使い

□第30話〜第33話
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第30話(前編)
お題:醜い鳥

花売りが祀られていたという、とっ散らかった祭壇の跡をぼんやり眺め、魔法使いはため息をひとつ。そして
「…ひげかァ…」
顎をなでた。
「えっ」
ルシルがその発言に振り返る。
え、まさか、生やしたいんですか?そして、むしられたいんですか…?
さすがにかける言葉が見つからなかったので、ルシルは咳払いをして別の問題を口に出した。
「それにしても、グッチョですよ。謎なのは。…花売りさんがいなくなったのはグッチョ(仮)のせいなんでしょうかね」
「グッチョ(仮)ねえ…誰なんだろう…」
「可能性として、考えられるのは、…あの侯爵の召使いです」
弟子の挙げた名に魔法使いは首を傾げる。
「でもお姉さんはご令嬢じゃないんだから、あの召使いの事は知らないはずだろ」
「そこですよ」
ルシルは声をひそめた。
「本当に、関係ないんでしょうか?あの召使い、行動が不自然なんですよ…嘘をついていたのかもしれない」
「不自然?」
「古い絵しかないのなら現在の年齢は何歳くらい、とか説明するでしょ、普通」
「あ、そうか」
「あくまでも推測ですけれど…召使い、はやっぱり花売りさんを探しているんではないでしょうか。ご令嬢云々とは別の理由で。そして花売りさんはそれに気づいて、逃げた。召使い、いや、グッチョに見つかるのが嫌で…。亜人探偵シリーズにもそんな筋書きの話があります」
「………」
魔法使いは、ルシルの組み立てた推理に、何かいやな予感めいたものを感じて黙り込んだ。昼間だというのに灰色の雲が空を覆い始め、軽く吹いてきた冷たい風に、2人は腕をさする。
「ひと雨きますかね…」
ルシルが普段より少し硬い調子で呟いた時、はるか上空を黒い鳥が横切って行った。
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