ガロッツのブルース

□case-03
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サイレンが鳴った。地球のものとは似ても似つかない、奇妙な打楽器のような音だ。食料貯蔵庫のコンテナの隙間に体を横たえて眠っていたヒジリヤマは、サイレンと同時に首輪に流された電流に驚いて飛び起きる。
急いでデッキに出ると、宇宙海賊達は手に手に恐ろしげな光線銃を持って小型船に乗り込んでゆく所であった。どうやら近くを通った宇宙船を襲撃するようだ。
一人の団員に、ピィ、ピッピピィと笛で指示を出され、ヒジリヤマは倉庫に走る。ここに連れてこられて何年(或いは何十年?)が経ったのか、もはやヒジリヤマにはわからないが、笛の指示を全て暗記してすぐに命令を実行出来るようになるほどには、長い。
笛を吹かれてからほぼ10秒余りで、素早く、倉庫から、重いキャプテンの甲冑と溶解銃、弾薬パックを抱えて戻ってきたヒジリヤマだったが、数名の団員を従えたキャプテン・ヤアゴはヒジリヤマの首輪に電流を流した。
遅い、という事らしい。
「ごめんなさい!ごめんなさい!勘弁してくださいすいません!」
言葉が通じないのは判っていながらも、ヒジリヤマは、ペコペコと頭を下げまくる。連れてこられたばかりの頃、お前もこうしてやるぞ、とばかりに美味しく料理された地球人を見せつけられた恐怖がヒジリヤマには染み付いていた。食われてはたまらない。
ヤアゴは床に這いつくばったヒジリヤマの頭を、黒光りする鍵爪保護シューズで一蹴りすると、一際豪奢な小型船に乗って、ハッチから標的の船へと向かって行った。
ヒジリヤマはため息をついて食料貯蔵庫に戻る。もはや怒りも悲しみもなかった。諦めと倦怠感のため息である。
今日はどれだけ、怒られずに済むだろうか。まだ食われないでいられるだろうか。
ヒジリヤマの思考はいつしかそれしか考える事がなくなっていた。
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