ガロッツのブルース

□case-04
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その人が来るのはいつも、太陽が沈みかけた頃で、しかし毎日ではなくむしろ"小屋"の常連客としては少ない、30日に1度ほどの頻度でしかやって来ない。デコはいつ現れるかわからないその人を、夕日の差す小さな仕事部屋の中でプラグを片手に待ち続けている。
初めて部屋にやって来た日、その人がデコに渡したプラグだ。
「聞こえるか?これはガロリンガルと言うんだ。俺の頭にも、あんたの言葉が判るようになるプラグが入っている」
デコはその時生まれて初めて、ガロッツでない"宇宙人類"と話をした。
『ふわぉ……』
「聞こえてるかよ」
『きこえるよ。デコのもきこえてる?』
「聞こえる。デコってあんたの名前か」
『そー。デコ。わたしデコ。名前なの。母がつけてくれたの』
「似合ってる」
オレンジ色の光に縁取られたその人はもちろんゼリー状不定形生物のデコとは全く違う姿の生き物だったけれども、頭部の、眼のような丸い大きな2つの半球がピカピカとまたたいて、その時彼は微笑んだのだと、なぜかデコには判ったのだった。
『あなたの名前は?』
尋ねるとその人は照れくさそうに、ギザギザの口をとがらせ、
「俺は、ジェットンという。ここの窓の下をいつも通ってた。で、あんたに一言忠告すべき事がある…あんた、よく窓開けたまま仕事してただろ…下から見えてんだって、あんたの、その、"してる"姿がさ…見てたわけではないし、ちょっと、ほんと、ちょっとしか見てないし、断じてわざとではなく、」
そんな事を言った。ジェットンが何を言いたかったのかデコはよく理解できなかった。けれど、どこか、何か心がほっこりと動いた。この人の"いとしいだれか"の代わりをしてあげたいな、と心底思った。
『よくわからないけどうれしいなー。デコうんとサービスします』
長く伸ばした体で絡め取るように、デコはジェットンを引き寄せた。しかし。
「ちょっ、待て待て待て!違う違う!」
ジェットンは座ったまま壁まで体を引いて、デコの仕事を拒んだのだった。
『なにがー?』
「何がじゃねーよ、あんた俺の話聞いてたか?窓閉めろって、お、俺はそれだけあんたに言おうと思って来ただけで…くっはぁ!やめろ!下垂体を刺激するなって…こらっ!」
結局、その日ジェットンはデコに"仕事"をさせず、何だかよくわからない世間話のようなものをひとしきりしただけで帰ってしまった。デコは不思議だった。
このひとは、なにをしにきたのだろーか
それでも、デコは思ったのだ。
また来ないかな、来ればいいな、と。
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