ガロッツのブルース

□case-06
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店内は相変わらず薄汚れていて、ゲーセンにしたいのか飲み屋にしたいのか方向性の定まらない中途半端な様子である。が、遺伝子保護法の制定以来、無法地帯のイア85地区でもピンクガロッツに対する風当たりはずいぶんきつくなり、デコを連れて入れるような店は、この辺りではエンラエの店ぐらいしか無い。
万が一警官にでも出くわした時のためにデコを隠すカバンを用意し、俺たちはカウンターに付いた。
『おつかれちゃーん!』
『ちゃ〜ん』
惑星ビールを瓶ごと、何の躊躇もなくガバガバ体内に流し込むキュウ。隣ではデコが砂漠苔の赤和えをもそもそ噛んでいる。俺は少し考えた末に一番安い発泡ハイを注文し、ちびちびとグラスを傾ける。
不戦勝でも勝ちは勝ちだ。賞金は入る。20万マッコイ稼いだんだから宇宙ブランを頼んでもいいっちゃいいんだが、俺はそうしなかった。金が必要だ、今の俺たちには。キュウは不戦勝とはいえ勝ったんだから飲んで良い。しかし俺は遺伝子保護法からデコを守らなきゃならない、ピンガロ規制が始まった今、デコは警官か保健所に見つかればぶち殺されてしまう。その前に、最低300万マッコイ、金を貯め、スペースシップを購入し、独立小惑星帯・ランシャークに逃げる必要があるのだ。
ランシャークは宇宙連合に加盟していないから、こっちと法律が違う。遺伝子保護法、バー中規制法は存在しないし、金さえあれば種族転移手術も自由。ピンガロとの擬似セックスがやめられねえ金持ちや、脳直バーチャル漬けになったくそセレブ御用達のリゾート地にもなっている、通称"天国に一番近い惑星"だ。
なんの因果かピンガロに本気で惚れてしまった俺と、クズ人間に惚れられちまったデコにとっても、ランシャークは少なくともここ惑星ラーテアよりは天国に近いはずの場所である。
『ジェットンのまないの?具合わるい?』
考え込んでいた俺に、デコがそう言って触手を近付けてきたので、俺はデコの少しひやっこい頭をつるっと撫でてやった。
「例の計画について考えてただけだ。お前が心配する事じゃない」
ピンガロ小屋からデコをかっさらって来たのは俺だ。何をやったって俺はデコを守らなきゃならない。ビールを我慢したところで300万マッコイなんか貯まるはずもないが、何もしないよりはましだ。
やれる事は何だってやる。
そうしなきゃ俺の女神はこの世から消えてなくなっちまう。
「安心しろ、大丈夫だ…」
俺はデコの冷たいゲル状の体を抱き締めた。
何が大丈夫だ畜生、
デコの低い体温に自らの不安を癒してもらいながら、俺はため息をついた。
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