短編/連作

□電車
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episode-00
都市伝説の電車

僕は先輩の家で夜遅くまで飲んでいた。明日は一限目から授業があったので、12時には家に帰りたかったのだが、先輩はなかなか離してくれなかった。何でも半年付き合った彼女にふられたとかで、淋しくて仕方ないらしい。延々と聞かされる泣き言にもうんざりしてきたので、もう振り切って帰ってしまおうかとも思ったが、大学で浮きまくっていた帰国子女の僕に色々と世話を焼いてくれた先輩だ、強引に出て行くのも悪い気がした。
「うう〜まだいいじゃねぇかよう」
「お願いですから勘弁してください、終電無くなっちゃいますから、」
すると先輩が妙な事を口走った。
「なくなったら山田電車にでも乗ればいいだろう」
「ヤマダデンシャ?何ですかそれ、先輩酔っ払い過ぎですよ」
あからさまに怪訝な顔をした僕に、先輩はドロッとした目を向け、
「ああ…お前帰国子女だったっけか…山田電車知らねぇんだな…」
にやりと笑った。
「し、知りませんよ。何なんですか山田電車って」
尋ねると先輩は愉快そうに、新たな缶ビールの蓋を開けた。
「都市伝説ってよう…アメリカにもあんのか都市伝説って」
「ありますよ。下水道の白いワニとか、マフィアホテルとか、プロムの幽霊譚とか」
「あーよくわかんねーけどそういう感じのじゃねぇよ、もっとこう…口裂け女とか人面犬とかよう、そっち系だよ、そっち系」
口裂け女や人面犬ぐらいならさすがに僕も知っているが、"そっち系"ということは、山田電車はフリークスという事なのだろうか。電車の怪物か何かか?不覚にも僕の中の好奇心が頭をもたげてきてしまったようだ。
「え、つまり、山田電車って怪物系の都市伝説なんですか?」
「山田電車はァ…、怪物じゃなくって、人間だって、そう言われてるけどォ、まあほとんど怪物?に、近いねー。2mだぜ、2m、身長」
ちょっと待て、山田電車は人間なのか?電車じゃないのか?
気になる。
気になりすぎる。
「どんな話なんです?先輩、教えてくださいよ、あ、スルメもっと食べます?」
僕はからしマヨネーズをたっぷり付けたスルメを先輩に薦め、先輩に続きを促した。いいやもう、明日一限目は休む事にした。
「山田電車ってのはよ…」
先輩は少し嬉しそうにスルメに手を伸ばすと、ろれつの回りきらない舌で、実に奇妙な、奇妙な話を語り始めた。
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