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□Powerless
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虎徹さんはいつもそうだ。

僕のことは何でも知っているように振る舞うくせに、ぼくの欲しいものに気付かない。
欲しいものがあるならそんな事、自分で言えばいいのだろうけどそういうことでは、ないのだ。

虎徹さんと付き合う時に、「別に一番じゃなくていいんです。そばに居たいんです。」的なことを言ったけれど『一番』じゃなくて良いなんて嘘。

何年か前に亡くなった奥さんの『トモエ』さんを、未だに愛し続けている虎徹さんが好きで。誰にでも優しい虎徹さんが好きで。僕に『一番』をくれない虎徹さんが、大嫌いだった。



虎徹さんの家のあまり広くないベッドで、身体を重ねているときも左手の薬指で鈍く光る指輪は僕の知らない『トモエさん』と虎徹さんの時間を訴えかけてくる。
そのたびに僕は虎徹さんの『一番』になることは出来ないのだと思い知らされるのだ。


『トモエさん』の死によって永遠に塗り替えられることの無くなった虎徹さんの『一番』。
小心者の僕は小心者故に「指輪を外して」とも「一番にして」とも言えず
しかし虎徹さんが離れてしまわないように、必死につなぎ止めようとすることしか出来ないのだ。
決して願ってはいけない僕の願いは
これから先もずっと伝わることの無いまま、消えることの無いまま、僕の中に残り続け。
虎徹さんのそばで『一番』になれず、ただ羨ましがる事しか出来ないのだ。

そして、ほんとに欲しいものに気付いてくれない虎徹さんを

僕は、嫌うことすらできないのだろう。


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