啄むようなキスが唇から首、鎖骨へ下がっていき虎徹さんの手が僕のシャツをたくしあげたとき、僕はトレーニングルームで聞いた話を思い出した。
「ちょ…、ちょっと待ってください…っ」
「なぁに?おじさん、もうヤバいんだけど」
「今日の午前中に、トレーニングルームでファイヤーエンブレムから聞いたんですけど…」
午前中に聞いた話。
それは、誰かが置きっぱなしにしていたゴシップ誌をファイヤーエンブレムが読んだところから始まった。
「あら、最近人気のあの映画の主演男優が結婚ですって」
「あぁそれ昨日のニュースで大々的に取り上げられてましたよ
お二方ともきれいな方でお似合いですよね」
「やだっ、ハンサムの方がよっぽど綺麗よ〜」
「褒めても何も出ませんよ」
「ちょ!バニーちゃん?それ今じゃなきゃだめ?おじさん、辛いの我慢してバニーちゃんのハンサム話聞かなきゃだめ?」
「…だめです」
そう言いながらも虎徹さんは僕の上からどいて話を聞く体制をとった。
「でも、二人とも綺麗過ぎるってゆうのもねェ…」
「? 何か問題あります?」
「こういうのはねェ…両方とも綺麗、美男美女のカップルはどちらかが目移りして長続きしないものなのよォ?」
「そうなんですか?」
そんなものだろうか。
綺麗なら綺麗な方がいいし、綺麗だからといって愛し合っているのだから目移りすることもないのでは無いか。
「そうよォ?まぁ例えばの話なんだけど、」
ファイヤーエンブレムの話は要するに美男美女のカップルよりどちらかが綺麗でどちらかがそうでないカップルの方が長く続くということだった。
例えば、綺麗でない男性が綺麗な女性を手に入れようと努力をする。それを見た綺麗な女性は自分を思ってくれる気持ちに喜び興味を示す。
それが嬉しくて綺麗でない男性はさらに努力をかさねて綺麗な女性のために尽くす。その繰り返し。
そのうち愛が芽生えるのだという。
「…なるほど…分からなくもないですね…。要するにその男性は女性の哀れみの心を利用したんですね?」
「まァそう言っちゃえば…そうねェ
でもそういう風に自分に尽くしてくれるなんて嬉しいものじゃないの〜」
「へぇ―…でもバニーちゃんは、ちょうキレイだぜ?」
「知ってます…だけど、」
だけど。
姿形なんてどうでもいいことで
女と男ならまだしも男同士で愛し合い続けるなんて。
両親を早くに亡くし敵を打つためだけに生きてきた僕は愛されるために必要なものなんて考えたことはなく
今この瞬間いくら愛し合っていても僕たちの間にはお互いをつなぎ止めることのできる確かなものなんて、何一つ無い。
でも、虎徹さんとなら。
「虎徹さんとなら、それでも僕はずっと愛し合っていられる、離さないでくれるって思えるんです。 笑っても良いですよ。僕は本当に、」
「偶然だな!おれもバニーちゃんとなら、ずっと一緒に居続けることができるって思える」
そう言って虎徹さんは僕の手を握った。
たとえ僕たちの間にお互いをつなぎ止める何かがなくたって。
「僕、虎徹さんが僕のこと好きなのよりもっとたくさん虎徹さんのこと、好きですよ」
「バニーちゃんのくせに生意気だな〜。おれはバニーちゃん以上にバニーちゃんのこと大好きだぜ」
虎徹さんとならずっと一緒にいられるって、思えるんです。