浮世話

□執行猶予3年
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【piece1〜迷路〜】




「遅ぇな…。
何やってんだ。」


今日は、
病院の入社式当日。
あと、20分足らずで始まるって言うのに。
鶴が来ない。
周りを見渡せば、
見知らぬ顔がたくさん化粧を塗って、
スーツでキメて座ってた。
俺は気が気じゃない。
だって鶴が居ねぇんだ。


鶴こと、
鶴居 京霞 21歳。
一緒に上京した一人。
4月1日、そう今日から、
この病院で一緒に働く予定なんだか…。
入社式まで20分もないそんな時間。

奴は来ない。

俺と鶴は、
看護学校から一緒で、
訳け合って一緒の病院に入職する事になった。
それほど大きな病院ではなかったのだが、
マンションの部屋の一部を借り上げして、
社員寮にしているため、
3つくらいその寮があった。
俺より近い寮に住んでいるのだが、
どうしたものか。

「ねえ。
ノブちゃん。
あいつ、どうした?」


鶴と一緒の寮に住んでいて、
先日の顔合わせで、
鶴と共に仲良くなったノブちゃん。
今日も鶴と一緒に来るはずだったんだが…。

「分かんない。
昨日、メールで一緒行こうねって、
それで、朝玄関で待ってたんだけど、
来なくて、
部屋に行ったんだけど、
出てこなくて…。」

困った顔になったノブちゃんに、
礼を言って前を見た。
あと15分。

さっきから、
ちらほら頭に浮かんでる状況があった。
こんな大事な日に、
まさかなって、
思ってたけど、
あいつならありえる。

ずっと電話してるのに、出ないし。



「あいつ…。
寝てるわ…・・?」

「えぇ〜〜!嘘でしょ!!
鶴ちゃん此処の場所、
いまいち分かってないよ!」

「俺さ、迎えに行ってくるから。」

「え!間に合わないよ。」

「大丈夫。チャリ飛ばせば。」

病院の会議室を飛び出した。
携帯取り出して、
もう一度鶴に電話をかける。
チャリ置き場につくまでの間、
コールし続けた。

コール音が消え、
通話の状態に。


「鶴!!
お前、何やってんだよ!」

『今起きた…。
どうしよう。まっちゃーん!』

「化粧なんかどうでもいいから!
とりあえずスーツ着て出て来い!!
今向うから!!」

『うん!!』


やっぱり。
この馬鹿たれ。

引っ越してきて一週間もしないこの街。
全く土地勘のない俺。
2回行ったことのある、
鶴の部屋までの道を思い出し、
自転車をこいだ。

少し走ったところで気づいた。


「やべ!!
逆方向来ちまった。」

そ。
俺、類稀なる方向音痴。

慌てて戻る。

「まっちゃ〜ん!!」

「鶴〜〜!!」

半べそすっぴんの鶴を発見。


「お前何してんだよ!
いいから乗れ!」

「ほんとごめん。」

「あとで聞く。」

後ろに鶴を乗っけて、
全力で立ちこぎ。
せっかくのスーツも汗ばんでた。


「だ―――っ!!
後3分だ!!」

エレベータ上って…。
もう、息も切れ切れに、
入社式の始まる会議室へ急いだ。

吐きなれないパンプスに手こずる鶴の手を引っ張って走った。






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