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□ガラスの靴を愛さない
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そう言って再びナミに笑みを浮かべ手を差し出す。
「……」
相手のいる女は誘わねェなんて、どの口が言いやがる?
ナミと付き合ってんのはおれだぞ。
だがおれは、ダンスなんて知らねェ。
エスコートなんて柄でもねェ。
凝視してしまっていたおれと目が合うと
何か言いたそうに開いたナミの口は再び閉じられた。
「誘う度胸もねェどっかのマリモは放っておきなよ。それよりおれと一緒に、素敵な夜を過ごしませんか?ね…?お姫様」
チッ…
表現も仕草も甘ったりィ声も
ナミを見る男の目も
何もかも気に入らねェ。
「え…でも…」
と、もう一度おれを見たナミの顔は
コックの誘いを受けるか迷っているような色を浮かべていて
心にもないことを口ばしってしまった。
「素敵な夜でも何でもてめェの好きにしろよ。おれは舞踏会なんて興味ねェ」
「…っ!…えぇ好きにさせてもらうわよ!サンジくんっ!しっかりエスコートしなさいよ?私を!!」
「はぁ〜い!喜んでっ!!」
真っ赤になって一切こっちを見なくなったナミは
そのままコックの誘いを受けやがった。
何やってんだおれは…
あんな言い方をすりゃあ意地っ張りなあいつが突っ張るとわかっていたはずだ。
だがそれでもナミはコックの誘いを断ると思っていた。
それなのに、何故受ける?
やっぱり女はパーティとかダンスとか
紳士とか王子とか
そういうくだらねェもんが好きなのかよ。
確かにおれは紳士でもねェし
女が喜ぶような甘い台詞も行動も起こせねェ。
エロコックみてェにはいかねェよ。
頭を冷やすためそれ以上何も言わず席を立った。
キッチンを出る間際、見せつけるようにナミの手の甲に口付けたコックが
おれを横目で見て笑うのが視界に入ったが
無視して扉を閉めた。