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□夜の月には手を振らない
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side-Zoro




耳を済ませば波の音が聞こえるような静かな夜。


冷たいシーツの中で寝返りをうって横を向くと目に入る、

闇の青さによってまるでつくりものであるかのように思わせる女の頬を撫でる。


先ほどまで自分の腕の中で身体を反らし、乱れ、快感に顔を歪めていた女とは思えないほどの安らかな寝顔に笑みがこぼれる。


今日はたまたまロビンが見張りをすることになったらしく、夕刻から水入らずで甘いひと時を過ごした。


いくら一緒にいても足りない。独り占めしたいし、ずっと見ていてェ。

付き合って随分経つというのに、気持ちは膨れ上がるばかりで戸惑いさえ覚えるほどだ。


今だって、この寝顔をいつまでも見ていてェ。
いつまでも頭を撫でて、抱きしめて、隣で共に夢の中に落ちて、

目覚めても一番に顔が見たい。


できるなら、そうしてる………。




俺はひとつ大きなため息をつき、愛しい女の額に長いキスをして、なるべく音を立てないよう立ち上がった。

いつまでもここにいると、また被害を受けてしまう。


寂しく、名残惜しく、また口惜しくもあり、後ろ髪をひかれる思いだが、致し方な………





「待ちなさいよ」



「どわっっ?!!」




後ろ髪ならぬシャツの後ろを思い切り引っ張られてベッドに尻餅をつく。




「どこ行くのよ?」



振り向くと頭だけを起こして俺を見上げるナミ。



「起きてたのか……」



今まではナミが眠りについてから部屋を後にするようにしていたため、どこに行くのかと聞かれたこともなかったし、

朝顔を合わせても深く追及されることはなかった。



「ねぇ……どこに行くの…?」



俺の服の裾をギュッと握って不安そうな顔で再度聞いてくるナミを見て、なんだか自分が悪いことをしているような気になってくる。


いや、俺は悪くない。仕方ねェ、仕方ねェんだよ…。



「………部屋に、戻る…だけだ」



事実なのだが、黙って出て行こうとしているところを目撃されたことで心の中は罪悪感でいっぱいになる。

くっと眉を寄せて唇を噛むようにナミの表情が苦しげに変わって、その瞳が僅かに伏せられた。



「私を……置いて……?」



「…………」


いつもの強気なナミからは想像もできないほどか細く頼りない声に驚く。


なんと言っても瞳を光らせて今にも泣き出しそうな表情は俺にとってとてつもない破壊力だ。





「ゾロ………」


「……置いて…行きたいわけじゃねェ……」



当たり前だろ、置いて行くというつもりはない。ずっと傍にいてェんだ。

だけど実際、いつもナミをこの部屋にひとり残していることに変わりはない。

眠りにつくまで隣にあった温もりが、目が覚めると無くなっているという淋しさをいつも味合わせていると思うと心苦しい。


「…………」


ナミが、俺の服を掴んでいた手をスッと放して背中を向けて頭から布団をかぶったので、

その上からそっと肩に手を置く。




「ナミ………」




「やっぱり……もうあんたは、私のことなんて好きじゃないの…?」





…………………は?
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