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□裸足の君は物言う花
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side-Zoro


武器も持たずに出ていきやがったあいつがそのうち店に戻ってくるだろうと踏んで

行き違いになったら困るので中で待たせてもらうことにした。

さっきの騒動の一部始終を見ていた店員たちが心なしか白い目を向けてくる。


大方彼女の気持ちを察することのできない甲斐性なしの彼氏にでも見えたのだろう。

彼氏なら「そういう可愛い姿は他の男に見せたくねェからおれだけの前で着ろ」と言っている。


………いや無理か。



どちらにしろだめだ。最近は活発な可愛らしさに加えてかぐわしさにも拍車がかかり

歩くだけで虫も男も惹き寄せるような女になっていくあいつを

いくらおれがついているからと言ってあんな格好で野放しになんてできるはずがない。




ところがいくら待っても戻ってくる気配のないナミ。

よくよく考えれば頑固なあいつがまざまざとおれの前に現れるようなことはしない……か。

痺れを切らしたおれは荷物を持って外に出た。






「裸足の女?いやー、見てないねぇ」

「オレンジなんて珍しい髪色、見てたら覚えてるよ」


ナミを見たという人物がなかなか見つからず、手当たり次第に聞いていると耳を疑うような情報が入ってきた。



「裸足?裸足じゃなかったが………髪がオレンジで白いワンピースのべっぴんさんなら見たよ?」

「どこで、どこで見た?!」

「ナオが自分の店から連れて出るのを見たけど…それからどこに行ったかは……」

「ナオ……?」

「ここらじゃ評判の好青年さ。実直で感じが良くてねぇ、おまけに仕事熱心で、今時珍しい若者だよ」

「店ってのは……?」

「あぁ、2番街の美容院だよ。いやー、いつのまにあんな可愛い子つかまえたんだか、楽しそうに腕まで組んでねぇ……そういや島の子じゃないようだったが、あんた知り合いかい?妹さん?」

「は、あー、いや……」

「ハハッ!あんな可愛い妹ならお兄さんは心配だろうねぇ!けど安心しな!ナオほど感心な青年はいないさ!それに……あのふたり、すごくお似合いだったよ!」

「…………」



ナミの靴を持つ手にぐっと力が入る。


そうか、街で噂の爽やか好青年と、楽しそうに、腕まで組んで……。

海で悪名轟かすおれとは真逆の野郎がいいのか、あいつは。



礼を言って踵を返すと「そんじゃあな、お兄さん」という声が背中にのし掛かった。



探すのは、やめよう。あいつもそれを望んじゃいない。


もういい、勝手にしやがれ。


歩く足取りに力なく、周りの喧騒を聞き流しながらふらふらと船を目指した。














「てめェナミさんと一緒じゃなかったのか?」


船に着くころにはちょうど夕食の時間で、ひとりで戻ってきたおれを不信に思ったコックが聞いてきた。


「あいつまだ戻ってねェのか?」


もしかしたら、船に帰っているかもしれない。ひょっとしたら、あのおっさんの見間違いだったんじゃなかろうか。

そんなことを考えたりもしたが、眉をしかめたコックの表情が浅はかなその期待を打ち砕いた。


「戻ってねェから聞いてんだろうが……まさかナミさんになんかあったんじゃねェだろうな?」


「……心配いらねェ」


「心配いらねェって……てめェそりゃどういうことだ?説明しやがれ」



バンッ、と両手を机につく。既に船に戻って晩飯を待っていたナミ以外のクルーが一瞬にして静かになる。





「とにかく………あいつのことは、ほっとけ」




圧し殺した低い声でそれだけ言って、何か言いたげなコックの目を見ずに酒を数本持って甲板に出た。
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