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□生は闘い
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「近頃の海賊ビジネスは景気がよくてなァ、しばらくこの島を拠点に武器取引の仲介をしてる」
「……相変わらず器用な男ね」
ガチャリと音を立ててガラスのテーブルにキーを放ると、男は背中を丸めて煙草に火をつけた。
骨の浮き出た肩ごしに、鉛を思わせる凶器が剥き出しで飾られている。
連れてこられた街外れの地下室は、ひっそりと無機質な温度を保っている。
「金ならいくらでもある。どうだ?嬉しいだろう?」
青白いその顔に笑みを貼り付け振り向くと、
とても力があるとは思えない腕で、男は私をソファに座らせた。
「……また私に騙されたいの?」
「あァそうさ、このカラダでなァ」
「……っ、」
肩を抱いたまま服の上から無遠慮に胸をまさぐられ、反射的に払いのける。
生娘のような反応がおかしかったのか、男は喉を反らせて一笑いするとますます私の身体を引き寄せた。
「いいから見せろよ……それとも今すぐおまえの船に出向いてやってもいいんだぜ?ん?」
「……お、女なら他にもいるでしょ?こういうこと以外なら、なんでもあんたの役に立つから……」
「おれはおまえがいいんだよ……」
「っ、まっ、……」
服の下に侵入した手が這いずり回るように胸の形をなぞると、厭わしいこの時間が永遠に続くような恐怖に襲われた。
覆い被さるように押し倒し、すぐに太もものクリマタクトに気づいて引き抜いた男が「護身用か?」と眺めている。
視線だけを動かして辺りの様子を観察すると、テーブルの下に置かれたケースの中には手入れの行き届いた小刀が所狭しと並んでいた。
男がクリマタクトをソファの裏に捨てている隙に、腕を伸ばしてそのうちの一本を手の中におさめる。
服の中に男の両手が差し入れられた瞬間、ソファの足に沿って静かにそれを昇らせた。
「…………っ、」
「……商品に触るな。おまえが扱えるような武器は置いてねェ」
グレーの髪の下で、抜けるような色の瞳が私を制する。
手首を膝で押さえられ、力の抜けた手のひらは反撃の糸口をするりと手放した。
「……っ、い、や……!」
「へェ…ますます男をそそるような身体になりやがって…誰に仕込まれた…?」
「は、放して…!やっぱり、私……!」
「あれから何人に抱かせて、いくら稼いで、何人の男を裏切った?」
「やっ!やめてよ…!」
胸を鷲掴んでいた手で首まで一気にシャツをめくりあげると、男は私の身体を上から眺めてぴたりと動きを止めた。
ゆらゆらと立ち昇る煙草の煙が、なぜだかやけに濁って見える。
黒い下着の胸元に尖った人差し指をつと往復させて、男は小さく吹き出した。
「……なぁナミ、誰からもらったァ…?」
「…………なに、…」
「キスマーク」
「……!!」
それは2日前、戦闘後の張りつめた精神状態で、日中にも関わらず我慢ができなくなった恋人から受けたものだった。
血を見ると獣と化す彼に、貪るように激しく求められたことが鮮明に蘇る。
皮膚だけじゃない。身体の中の全てを吸いとられてしまいそうなほど、何度も口で、舌で、愛された。
普段は口説き文句のひとつも言えぬほど堅物な男の中にある、熱。
思い出すだけで目眩がするような、激情。
「消えかけてるなァ……おれが付け直してやるよ」
「っ、いやぁぁ!お願いっ、やっぱり無理よ、できない…!」
「今さらだろう?何度おれと寝たと思ってる。そんなに嫌ならコイツで痕残してやろうか?あァ?」
「……っ、」
燻る煙草をチラつかせ私を黙らせると、それでいいと言うようにふっと笑って、長い腕をテーブルの灰皿に伸ばす。
あっという間に半裸にされ、両手がくまなく胸を這う。
吐息に少し声を混じらせて、味を見るように唇と舌が肌に埋まる。
心を無にして頭の中を空っぽにしてみても、男の指にはまったリングの感触が冷たくて、
熱くひび割れ、飾り気などないあの手を覚えてしまった私の身体に、大きな渦をもたらした。
肌にかかる髪の毛の色、ここから見える鼻の形、目線、指の太さと動き、身体の重さ、ぶつかるピアスの音の高さ、体温……
「はァッ、いいぜ、最高だ………………ナミ…」
名を呼ぶ声。
「っ、あっ、……や、だ……イヤぁっ!」
仕草につけ、呼吸につけ、熱につけ、
同じ男のはずなのに、その全てが私の望むものとかけ離れている。
ゾロは、吐く息の熱さだけで私を酔わす。
獣のような視線には、言葉よりも強く訴える力がある。
遠慮のない欲で、いつだって私を狂わせる。
もう、私が受け入れられるのは、
…………あいつだけなのに。
「くくっ、おれじゃあ濡れねェなんてほざいてたのはどこのどいつだ?しっかり感じてんじゃねェかよ。ほら、脚開け」
「やっ!違うからっ、……も、どいてよ!あんたとじゃ無理…っ!」
「なら一緒に船に帰るか?」
「や、………いや、」
「恥ずかしがんなよ。おれは好きだぜ?淫乱な女」
下を脱がせ抵抗する手を頭の上でまとめると、男は片手を脚の間に差し込み、生理的に溢れた液を絡めた指先で、
ゆっくりとその上に円を描いた。
「……っ、はぁっ、……んんッ、」
「ほら、イッたっていいんだぜ?……ココだろォ?……ほら、」
「やぁぁッ…!あッ!……あっ、やめてッ、」
「無理すんな、気持ちイイくせに……こっちもすげェな……舐めてくれって誘ってんのか?」
「やめっ、……ひゃぁッ……!」
舌と上顎で乳首を挟み吸い上げられ、びくりと身体が浮く。
女を知り尽くした指の動きが、意思とは関係なく下腹部を疼かせる。
男が喜ぶことをわかっていても、沸き出る蜜が止まらない。
口からはいやらしい声が出て、指の動きに合わせて腰が揺れる。
拒絶しているのは、心だけだった。
「あー、……おれもすぐ出ちまうなァ……まァいいか、何度もヤれば」
「っ!待って…!お願いレイス!あんたから奪ったお金、全部返すから!」
取り出した欲をあてがって、宣告ともとれる独り言を呟いた男。
後ずさる私を気だるげな仕草で簡単に引き寄せて、ピエロのようにニタリと口元を歪めた。
「そうだ……もう一度呼んでみろ、おれの名を」
「っ、………やぁぁッ……!!」
蕾に指を押し当てられたまま一気に中に埋められて、それだけで達してしまった。
「っ、……あァ、……やっぱもたねェなァ…」
「はぁっ、……あ、」
「……ナミ、ほら、呼べよ、」
「…………誰がっ、あんたの名前なんか、」
「そうか?じゃあ、…………」
その痕付けた男の名前でも呼んどけよ。
「…………っ、」
……………………ゾロ、
「…………へェ、魔女でも涙が出るようになったか」
「……っ、ぅっ、や、ぁっ、もうっ、やめて……」
揺すられる度、目尻からポタポタと落ちていく涙が、目にしみる。
いつだって、ピンチのときにはあいつが目の前に現れて、
トロいとか、邪魔だとか文句を言いながら助けてくれた。
でも、自業自得の罪は、
神様も、許してくれない。
「そのカオもいいじゃねェか……はっ、見てみろおまえの煽りでおれはもうそこまでキてる……」
「あっ、あっ、……やぁ…!ぬい、てっ、」
「……あァっ、……あ、………………ナミ、」
…………イく。薄い唇からそう溢すと、革のソファをうるさく鳴かせて、男は薄暗い天井を仰いだ。
「……っ!やぁぁッ……!!」
晒け出された喉元がゆっくりゴクリと動く映像が、脳裏に焼き付くほど鮮烈だった。