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□見つめる先には
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特等席の船首に張り付いて
いつも前ばかりを見据えている船長が


今夜に限っては前方になんて目もくれず


船の右方向から差し込む街の明かりだけを一心に見つめているのには



理由があった。















「見つめる先には」













「おかしい…

……ナミさんが戻らねぇ!!」






夕食の全メニューを食卓に並べ終わったところで


それまでやけに静かに準備を進めていたコックが声をあげた。



その突然の響きに一体何事かと身を竦めた面々は

この時間、本来ならば埋まっているはずの椅子が寂しく放置されていることに気がつき、
その言葉に対する反応を各々心の中で呟く。




(あ、そーいえばナミがいない……)




今晩のキッチンがやけに静かだったのは
コックによるラブコールの対象が半減していたからなのだ。




「島に行くとき、一緒に降りた奴はいねぇのか?」



「「「……」」」





奥のソファにふてぶてしく背を預ける変態が皆に問いかけるが

名乗りをあげる者はいない。



今朝上陸した近代的なこの島に目を輝かせた一行は

船番のブルックを除く全員が朝から街に繰り出していた。


こんな日は安い宿をとって陸で一晩過ごすこともあるのだが

近頃如何せんお金がない。

小遣いで泊まれる宿などこの豪華なサニー号よりも居心地が悪かろう。


そんなわけで温かい寝床と夕飯を求め

自然と我が家へ舞い戻ってきたクルーの中に

ただ1人、ナミがいない……




ただ…1人……?






「あれ…?ゾロもいねぇぞ?」




小さい身体で食卓に乗り上げるチョッパーの言葉に


クルー同士顔を見合わせてみどりのそれを探すが


誰1人として無愛想なその視線とぶつかった者はいなかった。





(ほんとだ、ゾロもいない……)





「まぁマリモの奴はいいとして…」


「ナミの方は心配ね」


「いやゾロの心配もしてやれよ」


「また迷子ですかね?」


「まず迷子で間違いねぇだろ」


「探しに行くか?」

「ほっとけガキじゃあるめぇし。そのうち戻ってくんだろ」

「治安もいいとこだったし、ナミはヘソクリで宿にでも泊まってるんじゃないか?」


「確かにそれはあるな。一応ナミさんの夕飯残しておくか」

「いやゾロの分は無しかよ」


「野郎はてめぇで勝手になんとかしろ」



そんなやり取りをしながら始まった二人を除く食卓の中、

いつものように片っ端から皿の中身を片付けていくルフィは

ふと、あることを思い出した。




そーいえば、昼間街で二人を見かけた…。



ゾロがナミの荷物持ちをやらされていて

一度は笑顔で駆け寄ったのだが

そのとき俺は
他に興味を惹かれる何かを発見してすぐに二人から離れたんだっけ…





「いけねぇ、豆がねぇな。
確かストックが倉庫に…」



サンジがそんなことを呟きながらキッチンを出たのを見計らった長鼻の男がぼそっと

けれど確かに皆に伝わるような声で言った。








「ナミなら無事だぞ。ゾロと一緒にいる」
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