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□風紀を乱すその肌に
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真っ白な雪肌に
惜しげもない紅い華。
「風紀を乱すその肌に」
「またあんたか…」
扉の開く音にいくつかの瞳が注目を示し、入ってきた人物を確認するやいなやすぐに手元や窓の外や話し相手に向き直る。
ここ最近の日課であるかのように昼時に顔を出す馴染みの男にため息をつくのは
丁度昼食の準備をしていた一味のコック。
「飯…食いにきた」
「はいはい、残念だったな。ナミさんなら出かけてるぜ」
「な…っ、誰もハレンチ娘に会いに来たなんて言っちゃいねぇ!」
脱いだTシャツを片手に
大袈裟に顔を赤くしてくわえていた葉巻を落としそうになりながら
その鍛えられた背中を流れる汗は一仕事終えた後だからか、それとも核心を突かれたことによる動揺からなのか
そんなこと、本日のお天気よりも容易く予想がつく。
「…だったら街の復旧や造船に忙しいはずのあんたが何だかんだと理由をつけ、
休む暇も惜しんでここにきて、
俺の麗しのナミさんを穴が空くほど見つめてんのをどう説明する気だ!?」
「なっ!!誰もいやらしい目でなんて見てねぇっ!!」
「おおぉぉいっ!いやらしい目で見てたのか!!!?てめぇ今すぐそのロープで自分の首を絞めて詫びやがれクソ野郎!!!」
調理する手を休めずにじわじわ責め立てるコックに圧倒されたのか
墓穴を掘ってますます赤くなる男に
「かわいいのね」とほくそ笑むロビンの向かいの席で
「熱でもあるのか」と心配するなんとも仕事熱心な船医に
「逆上せてんだと」と憐れみの目を向けるマリモ。
「俺はただ、今日はたまたま早番だったから…あんたの飯を食おうと思って…」
「ナミさんのつ、い、で、だろ。俺の飯に託つけて、ナミさんと会うチャンスをつくるためだろ」
できたてのパスタを律儀にも飛び入りの分まで盛り出した根っからの料理人に
バツが悪そうにがしがしと頭をかいて未だ心配そうに見つめる船医の横の椅子に腰かけて
この男はどうしても
本音を隠すことが苦手らしい。
「いやまぁ…あんたの飯が美味いってのは本心だ」
「てめぇ…イイ口実見つけたって腹だな」
「………」
もう何も言えずに声色だけは男らしく言葉にならない母音で唸る素直な男に
さっさと食ってナミさんが戻る前に帰りやがれとでも言うかのように
手のひらにバシッとフォークを当て付けて
シンクに戻る男を見つめて灰皿に葉巻を押し付けて
申し訳なさそうな顔でトマトとオリーブの香りが芳しいパスタを口に運んでいると
コックの期待を裏切って
話題の中心人物がひょっこりと顔を出した。
「ただいまー。わ、いいにおーい!」
クルーからの好奇の目も、そして一味以外の存在にも気づくことなく
ゾロの隣、目を泳がせっぱなしの男の向かいに躊躇なく座る。