novels2

□麦わら帽子が呼んでる
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項垂れる新聞の端を素早く掴むと無機質な紙擦れの音が微かに耳に響いて

一向に読み進められない片隅に新しい皺を刻む。



お姫様の笑顔越しに
相変わらずご機嫌な恋人の声。



何も嫉妬するのは女のロビンにだけじゃない。

彼の気を惹き付ける万物が

私の胸を痛くするのだ。












「疲れてんだよ…お前」






こんなことで、泣いてたまるもんですか。



そう思って唇を噛み締めると
私を孤立させていた紙切れがゾロの手によってバサッと抜き取られ

驚愕して声を上げる暇もなく体勢を崩されてすとんと熱い胸の中に収まった。






「なっ…、なに…」


「どうせ読んじゃいねぇだろうが。いいから少し休め」





肩の後ろから回された大きな手が
涙で滲む私の顔を隠すかのように頬を覆って
厚い胸板に、それこそ心臓の音が聴こえるくらいにぐっと押し付けた。







「……サ…っ」


「コックなら見張りだろ」


「………」




この場にサンジくんがいたら私を半分抱き寄せている状態のゾロに怒り浸透だろうが

ほんとはそんなこと、気にしてなんていない。




ルフィは……?




ゾロの紺色のTシャツを視界に入れながらダイニングの中心に意識を向けるけど

どんな理由であれ男に抱き寄せられる目の前の恋人になんてお構い無しで

未だクルーたちと楽しそうにとりとめもない雑談を続けるルフィに




今度こそ、私の心の中から熱い想いが溢れ出て頬を伝わった。





「………」




静かにぐずりながら
皺ができるくらいギュッと握ったTシャツを涙で濡らすと


ゾロは一度大きく胸を上下させてため息を吐き、
私の肩を抱く左腕と頭や頬を覆う右手の力を少しだけ強め


それ以上何も言わずに規則正しい心臓の音だけをこの耳に送り届けてくれた。







疲れていたのは本当のところだったようで



みんなに気付かれないようにひとしきり泣いた後、

心を落ち着かせるために深呼吸をすると

その呼吸が脳の感覚を奪って


ゾロの体温に促されるまま眠りに落ちた。
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