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□この病の治し方を知ってるか
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病を治すどころかどんどんこの熱を上げていく、白衣の天使。

















「この病の治し方を知ってるか」
















女の子からの熱い視線はいつだって男のテンションを上げるものである。


まかり間違っても鬱陶しいなんて思うはずがない。


それが想いを寄せる相手のものであるならば尚更、その瞳に何か特別な意志が込められているのではと期待して
心臓が速くなったり顔が熱くなったりするものだろう。



鍋蓋に遮られていた具材がグツグツ踊る音が耳に心地よく
お玉で一度くるりとかき混ぜれば立ち上る蒸気が一呼吸置いて形なく揺れる。


そしてその靄の先にはまさにこの鍋の中のスープと同じくらいのナミさんの熱い視線。




「…ハハ、俺ってそんなに愛されてます?」




昼食前にダイニングにやってきたナミさんは本を片手にしていて
クルーが騒がしい甲板を避け、端から読書をするつもりでここに来たのだろうと

邪魔をしないようドリンクだけお出しして自分は昼食の仕度に取りかかった。


今日は暑いなーなんてとりとめもないことを考えながらせっせと野菜をカットしたり肉に下味をつけたりして

しばらくして、そろそろおかわりかな?

そう思ってふとナミさんの方に視線を向けると示し合わせたかのようにパチッと目があった。


タイミングが良かったと思いおかわりはと尋ねれば、氷も溶けきって汗をかいているグラスをぼけっと見つめてまたこちらに向けたその顔を横に振ってみせるから

予想もしなかった反応に一瞬だけ面食らったが、特に気にせず作業に戻った。


鍋を火にかけて灰汁をとりとり、おかわりが欲しかったわけではないのならナミさんが自分を見ていた理由は何だったのだろうかと考える。

これもとりとめもないことのうちに入るのだろうし、ナミさんとしても一度はおかわりをしようとしたが気が変わったからだとか
お腹が空いて昼食のメニューが気になったからだとか
もしくは本を読んで疲れた目を癒すため視線をさ迷わせていてたまたまとか

何にしても気まぐれであることの可能性が高いのだろうし彼女にとってはまさに取るに足らない出来事なのだろうけど

その小さな出来事さえ調理中の俺の思考を楽しませるには十分すぎる材料だった。











「サンジくん!!」



一頻り自分に都合の良い解釈を施してニヤニヤと妄想に浸った後、
鍋の様子を見るため蓋を開けると熱々の蒸気の向こう側のナミさんと再び目が合った。


いつから見ていたのか本はもう閉じられていて
もしかしたら今度こそおかわりか、もしくは何か用事でもあるのかと思ったが
注目されていたことに嬉しくも照れくさくなってしまいいつものように軽口を叩けばナミさんがこれでもかと眉を潜めて勢いよく俺の名を呼ぶものだからこれまた面食らって背筋を伸ばさずにはいられない。




「は…はいっ?!!!」


緊張した面持ちでお玉を握りしめる大の大人はそれは滑稽だったであろうが致し方ない。

なんせナミさんの声色は機嫌が悪いときのそれと同じで険しい表情が怒っていることを物語っている。


たかだか一言の戯れで機嫌を悪くする人ではないしいつものナミさんなら俺の戯言なんて軽くあしらっておしまいだ。

だったら不機嫌な理由は他にあるのだろうと考えてみるもさっぱりわからない。

おかわりのことも気がけていたし読書の邪魔もしていない。
何か勘に触るようなことを言ったかと首を捻ってみたがそもそもナミさんがこの部屋に来て以来、会話すらまともにしていない。


だったら何故?

何にしても彼女を怒らせてしまったと、
きっと自分が知らぬ間にしでかした失態に対してそれが何かも判る前から後悔しているうちに


可愛い顔をキッと尖らせたままナミさんは席を立った。
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