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□身を知る雨に
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「…まぁ、ある意味変わってねぇな」
「…あんたまでそういうこと言う?」
酒に呑まれて本音を溢すのはいつだってこの男の前で
男もまた、自分に気を遣うことなく時に酷烈な言葉を投げつけてくる。
言い合いになることもあれば馬鹿笑いに変わることもある。
そんなとりとめもない話に付き合ってくれるゾロもたいがいに酒好きなのだろう。
ナミは昔も今も、ゾロと自分の酒を交えた素の関係が好きだった。
「あぁ…。てめぇは2年前からルフィルフィって、よくもまぁ飽きねぇこった」
今夜だって甲板のど真ん中で昼間の愚痴を肴に大いに飲んで
へべれけの一歩手前で不満を溢していたが
ルフィがルフィがと言い過ぎたのだろうか、
“2年前から”なんて否定できないことをさらりと言われてナミはもう、開き直るより他ない。
「私が好きなのは2年前のルフィなのっ!!」
「………つまりは自分が知らねぇ女の存在が気に入らねぇだけだろ」
「そうよ!悪い!?何が女帝よ!ちょっと美人だからって浮かれてんじゃないわよルフィのくせにっ!!」
以前に増して男らしくなったルフィに惹かれないわけがない。
だけど純粋無垢で女なんて知らない、そんなルフィで居てほしかったのも本音。
とどのつまりは昔も今も、ルフィのことが好きで好きでしょうがないのだ。
今更そんな胸中の常識をゾロなんぞに吐露されようとも痛くも痒くもない。
「…あのなぁ、ルフィだってガキじゃねぇ。女にくらい興味持つだろ」
「…なによ?あんたもあぁいうオバサンが趣味なわけ?」
海賊女帝がオバサンなのかは置いといて、ルフィの肩を持ったことで思わぬ問いを持ちかけられてゾロは眉を寄せる。
ただ単にナミのルフィ離れを目論む身としては流れ弾直撃ということになりかねない。
無論、そんなことは御免蒙りたい。
「別に興味ねぇ」
「どうかしら、所詮男なんてみんな見た目が良ければなんだっていいんだわ。
うちの連中が顕著に物語ってるじゃない」
「見た目だって好みの問題だろ。イイ女だと思うのと好きになる奴とはまた別だしな」
「じゃあルフィは世間一般でイイ女だって言われてるあの女帝がたまたま好みだったってこと?
それって結局見た目に踊らされてるだけじゃない?」
「さぁな。だがルフィは世間一般と違ってあの女の性格まで知ってんだろ?そうなると話は別だな」
「………」
普段から、打てば響くような反応を示すナミの言葉があからさまに詰まって、
深い闇に溶け込むその瞳が動揺の色に揺れたのをゾロは見逃さなかった。
「…考えてもしょうがねぇ。ルフィの頭の中なんて、本人ですらわかってんのか怪しいところだ」
「そうだけど…、会わないうちになんだかルフィが遠くなった気がするわ」
そうだ、ルフィの好み云々の以前に、自分は彼の2年間を何も知らない。
どんな人と出会ってどんなことをして、どんな気持ちになったのか
近くにいれば自ずと知り得ることができる情報が
この2年の間だけ、ポッカリと空いている。
周りが囃し立てているだけのように見えたってルフィのほんとの気持ちなんて知りようがない。
いくら友達だとか世話になっただけだとか聞かされても実際のところは何もわからないのだし、
問いただす権利すら、自分にはないのだから
この胸の中にできたわだかまりはいつまでも消えることはないだろう。
ナミはやりきれない思いを酒の辛さでかき消すように瓶を傾けた。