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□瞬きの行方
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追われると逃げたくなる。



逃げられると追いたくなる。





人の心は矛盾だらけだ。




















「瞬きの行方」

















人を好きなるきっかけは大抵些細なもので

何気ない優しさだとかふとしたときに見せる憂えた表情だとか

風に靡く髪が綺麗だったり笑うとガラリと変わる雰囲気にドキッとしたり…


そこにはっきりとした理由はないはずなのだけれど

タイミングと勢いが相まってなんとなく惹かれていく。




そんなもんだろうと思う。














「海軍大佐に捕まり投獄される。1回休み」


「はー!?またかよっ!!大佐って誰だよ!!」


「アハハ!ウソップどんくせぇなぁ!きっとケムリンだ!」


「処刑されなかっただけマシね。ちゃんと出られるんだもの」


「…不吉なこと言うなよー、ゲームでも怖ぇよ」


「よし、次おれだぞ!」






海賊ってのは海が穏やかで敵襲がないときは暇なもので

だけどそんな暇を好まないアグレッシブな輩が多いこの船では

何もすることがないと甲板に集まってボードゲームの類をやり始めることがよくある。

誰がどこで手に入れてきたのか最近は専ら海賊人生ゲームたるものにはまっているようだ。







「四皇に遭遇し痛手を負う。治療代200万ベリー」


「えぇぇっ!?おれ医者だ!自分で治せるから治療費浮かしてくれっ!」


「チョッパーずりー!おれだって肉食えば治るぞっ!!」


「あ、でも私たちのお見舞い金一人50万ベリーでほとんど賄えるんじゃないかしら?」


「はぁぁ!?チョッパー、自分で治せっ!おれはこの金で銅像買うんだ!!」


「いやそんなイベントねぇよ!」







元気な男共の中心で花のように微笑む女を盗み見る。

青い空に黒髪がよく映えてしなやかな細い指がルーレットを回す。




どうしてこの女はうちの船に乗っているのだろう。

この前まで敵だったはずの謎の女。

海賊なんてやらなくても生きていけるだろう器量の良さと頭脳を持ち

強さや度胸だってある。






「悪魔の実を食べカナヅチになる。これより先、サイクロンゾーンに入るとゲームオーバー…ふふ、ぞくぞくするわ」


「スリル大好きかよお前は…」






落ちつきはなった普段の態度と正反対の
子供のような素顔に目を細め、その顔を閉じ込めるようにそっと瞼を落とす。









こういう些細なことで胸が高鳴り



決して晒けだされることのない

影を宿した瞳の奥を知りたいと思うこの気持が


人を好きになるということならば












恋なんて、他愛もない。
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