novels2

□前編
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ゆらりと揺れた無色透明の水面に




秘めた心の内を映したいと願ったことが罪。






映し出された己を見る前に






その水に溺れてしまったことが罰。

























「たゆたう鏡」

























side-Zoro
























「……あのさ、」



「断る」



「………まだ何も言ってないじゃない」






突然トレーニングルームにおしかけてきて、
壁際のソファで真面目に船番をしていた俺の隣を陣取ったナミが小さくため息をついた。




「聞かなくてもわかる。ろくでもねェ企み、もしくは無謀なお願いだろ」




唇を尖らせつつもいつものような文句が出ないものだから、気になって隣を盗み見ると


ただ両膝に置いた手をギュッとにぎって考え込むように難しい顔になっているナミの横顔。






こりゃあ………


リアルなやつか?








あまりに深刻な面持ちに、頭の後ろで組んでいた手を

キャミソールなんていう相変わらず薄着のナミの肩に置いて顔を覗きこむ。






「………どうした?コックとなんかあったんなら、言ってみろ」





髪を耳にかけてこちらを振り向いたナミの瞳が俺を捉える。


……いつだってそうだ。


この瞳に心ごと、俺は捉えられる。





「………サンジくんにね…」





サンジくんが…

サンジくんに…




口癖のように繰り返される男の名を、もう何度も好きな女の口から聞いてきた。


二人が付き合うずっと前から、俺はおまえしか見ていないというのに。











「経験あるって言っちゃったの」




…………。





「は……っ?」





その意味を脳が理解してくれるまでに多少時間がかかって

一瞬の間を置いてすっとんきょうな声を出すと

何を勘違いしたのかナミが慌てて弁解に入る。



「ち、違うのっ!付き合う前よ!あの時はまさか恋人になれるなんて思ってなかったから…つい、見栄というか…」



「…っ、そこじゃねェ!俺が驚いてんのは……おっ、おまえ……」



「………」




悪い?とでも言い出しそうな顔つきが、俺の予想を正解に導く。



まさかまさか……。




「おまえ、………処女、か…?」



「…あんたね、はっきり言い過ぎ」


呆れたように目を瞑るナミの肩から放した手は所在なく自分の顎を撫でて、

意識せずとも身体中の血が妙に騒ぐ。




「それで、隠しきれなくなってきたんで困ってると…」



「………」



コクっと頷くその顔はひどく罰が悪そうに遠くを見る。



………こいつら、付き合って4ヶ月経つってのにまだヤッてねェのか。


そもそもナミが未経験だった時点で驚愕だってのに。






「…とっとと白状すりゃいいだろ」



「できたらこんなに困ってないわよ」




そんなもんか?コックは逆に喜ぶと思うが……。



という言葉は飲み込んで腕組みをして解決策でも考えるふりをしていると


身体ごとこちらに向けたナミが、真っ直ぐに俺を見て意を決したように口を開く。




「あんた………、処女って抱ける?」



「………」




……何が言いてェ?



「私、サンジくんと…そうなる前にって、思ってる」



「………」




胡座をかいた俺の足にそっと手を添えたナミが俺を見上げると

耳にかけていた髪の毛がハラリと落ちた。





「ねぇ………ゾロ」



「……っ」









ろくでもねェ企みでも無謀なお願いでもねェ、こんなの…





ただの拷問だ。
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