novels2

□後編
1ページ/13ページ







溺れた後で気がついた。




心を映し出すことができる鏡のようなこの水は






ひとつに留まることを知らない底なしの







どこまでも残酷で優しい揺らぎだと。



















「たゆたう鏡」























side-Zoro











「船番、ご苦労さま」






嫌な予感がした。




今日はフランキーに荷物持ちを頼んだのだというナミは、どこか寂しそうな表情で俺の隣に座って

窓の外の暗い海を眺めた。





「俺は朝からずっと見張りだ。船の番人にでもするつもりか」



大げさにため息をつくとナミは小さく笑った。




皆買い出しがあるからとコックに言われ1日目は船番を任された。

それに加えて夜は見張りときた。



一巡前の見張りの日、あの日ナミと関係をもってからは

あっという間に時が過ぎた。


そろそろ、この関係を終わりにしたいと言われてもおかしくない。


初めてを済ませることも

行為に慣れることも

一緒に居られる口実はもう、使い果たしてしまったのだから……




今日だって、食料調達に忙しいコックの代わりの荷物持ちという役目は、

牽制されているためか叶わなかった。






「………ゾロ」




ナミの手が俺の胸に伸びる。

その手の横に寄り添うように顔を寄せるナミに

それだけで心臓が速くなり、身体中が反応する。




肩を抱いて髪に顔を埋めて首筋から鎖骨に指を這わす。

こうしてまだ、密着することを許される現実に安堵しながら、触れた部分に欲情して服の襟に手を忍ばせる。









「待って………」


「………」



指先が膨らみをとらえようとした瞬間、ナミの手が柔らかく俺を制止して、心臓が止まるような感覚に陥った。



あぁそうか、


この関係はもう終わる。


ナミはコックとうまくいって、俺らは元の仲間に戻る。


もう、今までみたいに触れることも、キスをしたり抱きしめたりすることも許されない………。


動揺が悟られないようにそっと手をどける。


だけどどうしても、肩を抱いた手を放すことができない。



あと数秒、あと少しだけ………



そう思うごとに胸が締め付けられて、


このまま時間が止まってしまえばいい、

そしたらこの手を放すことも、

ナミがコックのところに行くこともないなんて女々しく思ったりもして


さすがに数秒が十数秒になろうとしたころ、ようやく温もりを手放そうとした


その時、










「今日は………一緒に寝るだけ」



「………は」







放心していた心は一気に引き戻されて

上目遣いで俺を見つめるナミの言葉を馬鹿みたいに反復する。






「一緒に……寝る、だけ?」



「えぇ。…だめ?」


………。





だめも何も、理由もなく、目的もなく、ただ隣にいることを許される。


そんなまるでただの恋人同士みたいなこと、あって良いというのだろうか。


俺が欲しくて欲しくてたまらないその席はコックのもので、これから先もずっとそうだろう。








「……いいのか?」



思わず口にしてしまった言葉は隠していた気持ちが剥がれ落ちてしまったような、

嬉しさを隠しきれない響きを含んでいたことに気がついて

ハッとしてナミを見るが、小さく笑顔で頷くのを確認したら素直に抱きしめずにはいられなくて


そのまま横になって包むように身体を抱いて髪を撫でる。






「………キスは、いいか…?」



「………うん」





セックスは無しで、

キスはよくて、

抱きしめて寝るのもよくて………



だけど恋人になりたいと願うことはタブー。




この違いはどこにあるのだろうと

考えてみてもわからなくて



それでも、ナミの気まぐれやなんかでも

無条件に居場所が与えられることが、どうしようもなく嬉しい。





優しいキスを繰り返していると、少しはその肌に触れたいという劣情を抱きつつも、



今まで身体を重ねてきた幾度の夜と比べたって比べ物にならないくらい







ただ隣で眠れる。


たったそれだけで、


俺にとっては最高に幸せな一夜だった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ