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□海の悪魔に刃の切っ先
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船長の女になる方法
@睡眠を邪魔しない
A読書を邪魔しない
B命令をしない
「海の悪魔に刃の切っ先」
「ペンギンってばかなの?」
「おれじゃない。シャチの意見だ」
「あぁ、シャチね…」
なるほど
と呆れたように頬杖をつく目の前の女は、うちのクルーでも、船長の女でも、ましてやおれの彼女でもない。
「でも、今のところそれが一番理にかなった方法だとおれも思う」
「はぁ?どこがよ?だいたいなんで私がローの女になりたい設定なわけ?」
むしろおれが聞きたい。おまえにその気があるのかないのか。
「ナミが船長に惚れてるように見えるからだよ」
「惚れてるわよ?なかなかいないじゃない、あんたんとこの船長みたいな男」
「……だったらシャチのその設定はあながち間違いじゃないってことにならないか?」
ズズズッとテーブルの上を滑らせてグラスを差し出すナミに、
催促されるがまま酒をつぐ。
「なーりーまーせーんっ!それとこれとは別!私はローの女になりたいんじゃなくて、ローを落としてみたいだけ!」
惚れてるのに女にはなりたくない
それなのに落としたい
「…ごめん、凡人のおれには理解できない」
女心は難しいとしばしば囁かれる俗世間のよしなしごとに、まさか自分がこれほどまでに翻弄されるとは。
もうっ!と頬を膨らませておれがついだ酒をぐっと喉に流し込むのは、
秋の空と形容されるほど変わりやすく難しい女心を持つ、おれと同じ世捨て人。
「だいたいね、仮にその設定だったとしても、何その方法?ひとつも参考にならないわ」
「そうか?シャチにしてはわりと的を得てるぞ?」
「どこがよ、消極的すぎるのよ。シャチが言ってるのはローにバラされないための方法!私が知りたいのはローを落とす方法よ!」
ナミがテーブルに肘をついて空になったグラスの口を上から掴んだまま
指図するように手首を動かすたび、中の氷がカランと鳴る。
なんだかそれが船長が能力を発動するときの手つきに似ていてモヤっとする。
「落とすためには好かれなきゃいけないだろう?好き嫌いの激しいうちの船長に好かれるためには、まず嫌われないように努力することだと思うけど」
「それが消極的だって言ってんの!もっとこう、あるじゃない?好きな女のタイプとか、仕草とか…」
ごくっと酒を煽る間に、船長の女のタイプを想像してみる。
たしか昨日は小柄であどけない顔つきの女
その前は長い黒髪が印象的でミステリアスな雰囲気の女
ひとつ前の島では肉付きのいい健康的で快活な女
その前は、えーっと---…・
「………色とりどりだな」
「何それ」
「一言じゃ表現できないってこと」
船長は特定の女をつくらない。
島に着いては気まぐれに女をはべらせて船や宿に連れこむ。
同じ女と二度一緒にいるところを見たこともなければ、同じようなタイプの女を好んで選んでいるわけでもない。
星の数ほど寄ってくる女の中から毎回そのときの気分で選別し、目的が済めばあっさりと切り捨てる。
たったひとりの女に入れ込んでいる船長なんて、そんな奇跡みたいなことがあるならそれこそ見てみたい。
「…ペンギンならもっと貴重な情報くれるかと思ったー」
「無茶言うなよ。あの人の頭の中は四六時中隣に張りついてたってわからない」
傍にいたって読み取れる感情は「眠ィ」「イラつく」「ふっ、面白ェ」くらいのもんだ。
それにそう簡単には教えられない。
ナミに本気になられるのも困るけど、
船長がそれに絶対に靡かないとも言いきれない。