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□海の悪魔に刃の切っ先
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シャボンディで会ったおれのことを、ナミは覚えてくれていた。


正確にはハートの海賊団のツナギ、つまり船長の部下だということで頭の隅に記憶されたらしい。


新世界からは頻繁に顔を合わせる機会があり、気さくなナミとはシャチやベポもすぐに打ち解けた。


そしてバッタリ島で出くわすと、おれとナミはこうして昼間から飲み交わすほどの仲になった。



もちろん、おれのおごりで。




「ごちそうさま!美味しかったわ」


「…あぁ、いい店だったな」



花のような笑顔でお礼を言われてしまえば、ご馳走するくらい安いものだとも思ってしまう。




「あ、ねぇちょっと本屋に寄りたいんだけど、ペンギン付き合ってくれる?」


「構わない。おれは予定もなくふらふらしてただけだから」






久々の陸だから

本当は適当に女でも買おうかと思っていたけど、




やめた。





好きでもない女と気持ちのないセックスをするより

好きな女と本屋で健全なデートをする方が何百倍も有意義だ。


もっとも、ナミに惹かれるようになってからは

どんな女が隣にいたって嬉しくなくなってしまった。







「ナミは、船長のどこが好きなんだ?」



おれとさほど身長差のないヒールのナミと並んで歩きながら、

つい「あんな男のどこがいいんだ?」というニュアンスのことを聞いてしまう。


………らしくない、と思う。



おれはシャチみたいに思ったことを何でも口にできるタイプでもないし、

かと言ってベポみたいに素直で疑いを知らないタイプでもない。

感情的になるのは非効率的で子供じみているとつくづくわかっている。


だけど、仕方ないんだ。

おれという男と一緒に居たってナミは

船長がイイ男だって、そのことばかり。

船長は、ナミが言い寄ったって都合よく抱いたらすぐに捨てるに決まってる。


そうじゃなく、もし本気にでもなったとしたら

所有物として縛ってでも自分の傍に置くだろう。




そんな冷徹非道な男より、おれの方が絶対に、ナミを大事にしてやれるのに…。







「どこが好きか?そうねー…顔、金、腕かしら?」


「……ん?なんかそれ、おかしいの混ざってないか?」



顔はわかる。あの猟奇的な隈さえ魅力的に見えてしまうほど、船長は男前だ。


腕もわかる。世間では死の外科医なんて囁かれているが、医者としての腕は確かだし、強さに関しても文句のつけどころがない。


自分の船の船長だからという敬意を差し引いても有り余るくらいに、あの人は格好いい。憎たらしいくらいに。


だけど、





「金って?」


「医者の腕があるんだから、何かあっても食いっぱぐれないじゃない?」


「……まァそうだけど…」



自分の長い髪を指でくるくる巻きながら

ごくごく自然な日常会話風を装う彼女は



いったいどこまでが本気なんだか。
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