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□あだなるアイツは忠誠男
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かりそめの恋をするなら
たわむれの恋をするなら
どんな男性の手を取るべきですか。
それは当然、浮気性の男に限ります。
「あだなるアイツは忠誠男」
「それじゃあ、誠実で本気の恋をするなら、どんな男が適当かしら?」
「そんなの決まってる」
まるで普遍的な世界の常識を言って聞かせるかのような口振りで呟いた男は
刺繍づくしのその指を酒瓶に伸ばし、自分の足元に引き寄せたところで
意味ありげに光る眼差しを私に向けた。
「…………おれ」
「…………」
「……なんだその目は」
カンカンカン--…・
フランキーが金槌を打つ音が海の上から虚しく響いてくる。
私は残り少ないライトピンクのグラスに口をつけながら、
不満そうに眉を寄せる自意識過剰男を無視して、その隣に付き従うように座っていたペンギンに声をかけた。
「ねぇ、あんたんとこのキャプテン酔ってんの?それともバカなだけ?」
突然話を振られた彼は、ペンギンと書かれた帽子の下で困ったように口元をひきつらせながらも律儀に答える。
「どちらにしろ、今現在船長の機嫌が稀に見る上昇傾向にあるのは否めない」
「おいペンギン、おれは酔ってねェしバカでもねェ。きちんと否定しておけ」
「はは、そうでしたね。でも機嫌が良いのは否定しないんですね、船長」
ほくそ笑むペンギンを無視してぐびっと酒を煽る男のヘンテコな黄色い海賊船は、只今うちの船大工が絶賛修理中。
借りをつくるのが嫌だと酒や食べ物をサニー号の甲板に広げるものだから、
予想に違わず昼間だというのに宴が始まってしまった。
「私は“誠実”で“本気”の恋をするならって言ったの。
今の答えじゃ“かりそめ”で“たわむれ”の恋をするならっていうさっきの質問の答えと同じじゃない」
「………おれが浮気性だって言いてェのか?」
「えぇ、見るからに」
間髪入れずに答えると、ペンギンが帽子をかぶり直してくすりと笑う。
どの辺りが上機嫌だというのか、そんなペンギンをギロリと睨む形相は悪人そのものだ。
「ナミはどうしてキャプテンが浮気性だって思うの?」
ピリっとした雰囲気を和やかなものに変える白熊が、
そのふわふわな毛にそっくりな綿あめをチョッパーの隣で舐めながら言った。
「雰囲気全般。それから自信家なところ」
「それってさァ、結局船長がモテそうって思ってんだろ〜?」
キャスケット帽の男がチャチャを入れてくる。
飲まなくともハイテンションなこの男は、飲むと絡み癖があるらしい。
「…まぁそこは否定しないわ」
「素直だな。そういう女は好きだ」
「そういう軽さも要因のひとつよ」
「好きな女に好きだと言うおれのどこが軽い?」
「好きでもない女にも好きだと言うところよ」
「そんなのわからねェだろう?」
「わかんないけど、そういうふうに見えるの」
「わからねェならこれからたっぷり教えてやるよ……」
“おれの本気を”
耳元に寄せられた唇からはいかにも女の扱いを熟知したような
そんな言葉が吐息と共にかけられた。